登山ザックの容量選びが重要な理由
登山においてザック(バックパック)は、単なる荷物入れではなく、身体の一部となって行動を支える重要なギアです。容量選びを間違えると、以下のような問題が生じる可能性があります。
- 容量が小さすぎる場合:必要な装備が入りきらず、外付けにしてバランスを崩したり、重要な防寒着や食料を減らさざるを得なくなったりします。
- 容量が大きすぎる場合:ザック自体の重量が増すだけでなく、荷物が中で揺れて疲れやすくなり、転倒のリスクも高まります。
適切な容量は、登山のスタイル(日帰り、山小屋泊、テント泊)や季節、そして個人の体力によって決まります。まずは一般的な基準を知り、自分に最適なサイズを見極めましょう。
日帰り登山に最適な容量は20〜30L
日帰り登山では、20〜30L程度の容量が最も一般的です。朝出発して夕方には下山する行程では、宿泊用の装備が不要なため、比較的コンパクトなザックで対応可能です。
容量の使い分け目安
- 20L前後:ハイキングや夏の低山向け。荷物を極力減らしたライトなスタイルに適しています。
- 25〜30L程度:最も汎用性が高いサイズ。レインウェア、防寒着、クッカー(調理器具)、救急セットなどを余裕を持って収納できます。
特に初心者の方には30L前後をおすすめします。パッキング(荷詰め)に慣れていないうちは、荷物のかさが大きくなりがちだからです。また、春や秋の登山ではフリースやダウンジャケットなどの防寒着が必要になるため、夏よりも少し大きめの容量が必要になります。
※冬季の低山ハイクでは、厚手の防寒着やアイゼンなどが必要になるため、日帰りでも30〜35L程度あると安心です。
20〜30Lで行ける関東近郊の山行例(参考)
- 高尾山(東京):初心者向け日帰り、往復3〜4時間
- 大山(神奈川):日帰り、往復4〜5時間
- 筑波山(茨城):日帰り、往復4〜5時間
- 陣馬山〜高尾山縦走(東京・神奈川):日帰り、6〜7時間
- 御岳山・日の出山(東京):日帰り、4〜5時間
※所要時間は標準的なペースでの目安です。体力や天候により大きく変動します。
山小屋泊(1泊)に最適な容量は30〜40L
山小屋を利用する1泊2日の登山では、30〜40L程度が目安となります。山小屋では寝具や食事が提供されることが多いため、テント泊に比べると装備は軽量で済みます。
日帰り装備にプラスされるもの
- 着替え(下着、靴下など)
- 洗面用具、タオル
- インナーシーツ(小屋により必要な場合あり)
- 予備の行動食、水
- モバイルバッテリーなどの充電器類
装備を厳選できる経験者であれば30L程度でも十分対応可能ですが、初心者は35〜40L程度を選んでおくと安心です。お土産を入れたり、脱いだ上着を無造作に入れたりできる余裕が生まれます。
※2泊以上の縦走(山小屋泊)になる場合でも、途中で食料や水の補給ができれば、基本的にこの容量で対応可能です。ただし、自炊をする場合は調理器具や食材の分だけ容量を増やす必要があります。
30〜40Lで行ける関東近郊の山小屋泊例(参考)
- 丹沢・塔ノ岳(神奈川):山小屋1泊、尊仏山荘泊
- 雲取山(東京・埼玉・山梨):山小屋1泊、雲取山荘泊
- 金峰山・瑞牆山(山梨):山小屋1〜2泊、金峰山小屋泊
- 北八ヶ岳・天狗岳(長野):山小屋1泊、黒百合ヒュッテ泊(通年営業、カフェあり、初心者・女性に人気)
- 燕岳(長野・北アルプス):山小屋1泊、燕山荘泊(「日本一泊まりたい山小屋」と評される人気小屋)
※山小屋の営業期間や予約の可否は事前に公式サイトでご確認ください。設備の整った山小屋を選ぶと、初めての山小屋泊でも安心です。
テント泊に最適な容量は50〜70L
テント泊登山では、「衣・食・住」のすべてを背負って歩くことになるため、容量は一気に大きくなり、50〜70L程度が必要になります。
テント泊の容量目安
- 50〜55L程度:1泊2日の夏季テント泊や、UL(ウルトラライト)装備で軽量化を図っている人向け。パッキング技術が求められます。
- 60〜65L程度:最も標準的なテント泊サイズ。初心者でも必要な装備を無理なく収納でき、2〜3泊の縦走にも対応可能です。
- 70L以上:長期縦走、冬季テント泊、またはグループ登山の共同装備(大きなテントや食材)を多めに担ぐリーダー向け。
テント、寝袋(シュラフ)、スリーピングマットだけでかなりの体積を占めます。最近は道具のコンパクト化が進んでいますが、初めてテント泊用ザックを買うなら、汎用性の高い60L前後が失敗の少ない選択肢と言われています。
※体力に自信がない場合、あえて少し小さめのザック(50〜55L)を選び、強制的に荷物を減らして軽量化を図るという考え方もあります。
50〜70Lで行ける関東近郊のテント泊例(参考)
- 北アルプス・涸沢(長野):テント泊2〜3泊、涸沢キャンプ場
- 南アルプス・北岳(山梨):テント泊2〜3泊、肩の小屋テント場・北岳山荘テント場
- 八ヶ岳縦走(長野・山梨):テント泊2〜3泊、赤岳鉱泉・行者小屋など
- 尾瀬ヶ原(群馬・福島):テント泊1〜2泊、見晴キャンプ場
- 北アルプス・上高地〜槍ヶ岳(長野):テント泊3〜4泊、横尾・槍沢・槍ヶ岳山荘
※テント泊は登山経験と装備の知識が必要です。初めての方は経験者同行または山岳ガイド同行をおすすめします。
初めてのザック選び|失敗しないための容量選択術
これから登山を始める初心者が最初に購入するなら、30L前後(28〜35L)のモデルが最もおすすめです。
30L前後が「最初の1個」におすすめな理由
- 日帰りから山小屋泊までカバーできる:荷物が少ない日帰りならストラップを絞って圧縮し、山小屋泊なら容量をフルに使えます。
- 防災用としても使える:避難時の持ち出し袋としても適度なサイズ感です。
- 日常使いとの兼用もギリギリ可能:デザインによっては旅行やタウンユースにも流用できます。
もし将来的にテント泊も見据えているとしても、いきなり60Lのザックを買って日帰り登山に行くのはおすすめしません。ザック自体が重く、荷物がスカスカで安定しないためです。まずは日帰り・小屋泊用の30Lクラスを購入し、テント泊をする段階になったら大型ザックを買い足すのが、多くの登山者がたどるステップです。
容量以外にチェックすべきザックの選び方
容量が決まったら、次に重要なのが「自分の体に合っているか」です。以下のポイントを必ずチェックしましょう。
背面長(トルソーサイズ)
ザックには服と同じようにサイズ(S/M/Lなど)があります。これは容量の違いではなく、背中の長さ(背面長)の違いです。背面長が合わないと、腰ベルト(ウエストハーネス)が正しい位置に来ず、肩に荷重が集中してしまいます。必ず専門店で計測してもらいましょう。
その他のチェックポイント
- ザック自体の重量:最近は1kgを切る軽量モデルも人気ですが、クッション性が犠牲になっている場合もあります。初心者はある程度しっかりした作り(1.2〜1.5kg程度)の方が疲れにくい場合が多いです。
- アクセスの良さ:メイン気室にアクセスできるファスナーがサイドやボトムにあると、奥の荷物を取り出しやすく便利です。
- レインカバーの有無:付属しているか、別売りかを確認しましょう。
【経験者が教える】ザック選びで見落としがちな3つのポイント
ここからは、筆者が実際に複数のザックを使い分けてきた経験から、「買う前に知っておきたかった」と感じたポイントを3つご紹介します。
1. メーカーによる容量表記のズレに注意
カタログに「30L」と書かれていても、実際の収納力はメーカーによって異なります。A社の30Lはメインポケットだけで30Lあるのに対し、B社の30Lは外側のメッシュポケットまで含めて30L(メイン部分は実質25L程度)というケースがよくあります。
これは測定基準がメーカーごとに異なるためです。対策としては、「30L」という数字だけを信じず、実際に持っていきたい荷物(特にかさばる防寒着など)を登山用品店に持参し、詰めさせてもらうのが確実です。店員さんも慣れているので、遠慮せず相談しましょう。
2. 「雨蓋(あまぶた)」の有無で使い勝手が変わる
30L前後のザックには、大きく分けて2つのタイプがあります。
- 雨蓋タイプ:上部にフタ(雨蓋)があり、荷物を上から詰め込むスタイル。荷物が多少膨らんでも雨蓋で調整できるため、山小屋泊や荷物が変動する登山に向いています。
- パネルローディングタイプ(ファスナー式):背面側の大きなファスナーでガバッと開くスタイル。荷物の出し入れが楽で、日帰り登山やタウンユースにも使いやすいです。最近は街でも使いやすいこのタイプを選ぶ人が増えています。
初めての30Lザックなら、街でも使えるパネルローディングタイプを選ぶと、登山以外のシーンでも活用できて便利です。
3. 冬山の「30〜35L」は低山限定と心得る
前述のセクションで「冬季の低山ハイクでは30〜35L」と書きましたが、これはあくまで雪が積もっていても日帰りで帰れる低い山のことです。
もし将来的にピッケルを持って本格的な雪山に深く入る登山(例:厳冬期の八ヶ岳や北アルプスなど)を計画する場合は、日帰りでも40〜50L程度が必要になることがあります。冬山装備は防寒着だけでなく、ピッケル、アイゼン、スノーシュー、ビバーク装備など、夏山とは比較にならないほど荷物が増えるためです。
※「低山の冬ハイク」と「本格雪山登山」は全く別物です。後者を目指す場合は、経験者同行や雪山講習の受講を強くおすすめします。
容量別おすすめ活用シーン早見表
| 容量目安 | 主な用途 | 宿泊形態 | 適している人 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 15〜20L | ハイキング・トレラン | 日帰り | 経験者・軽量化重視 | 夏場や短時間向け |
| 20〜30L | 一般登山(夏山) | 日帰り | 全般 | 最も標準的なサイズ |
| 30〜40L | 富士登山・雪山日帰り | 日帰り〜小屋1泊 | 初心者〜中級者 | 汎用性が高い |
| 50〜65L | 本格縦走 | テント泊(1〜3泊) | 中級者以上 | テント泊の標準サイズ |
| 70L以上 | 長期縦走・冬山 | テント泊(長期) | 上級者・リーダー | 荷揚げや遠征向け |
よくある質問(FAQ)
Q: 初心者は何リットルのザックを買えばいいですか?
A: 最初の1つなら30L前後(28〜35L)が最もおすすめです。日帰り登山から山小屋1泊まで対応でき、装備が増減しても調整しやすいサイズです。
Q: 日帰りと山小屋泊を兼用できる容量はありますか?
A: はい、30〜35L程度のザックであれば兼用可能です。日帰りの時はコンプレッションベルト(横のベルト)を締めて薄くし、小屋泊の時は広げて使うのが一般的です。
Q: テント泊で50Lと70L、どちらを選ぶべきですか?
A: 初めてのテント泊なら60〜65Lの中間サイズが無難です。50Lはパッキング技術と装備の小型軽量化が必要で、70Lはザック自体が重くなりがちです。
Q: 冬季登山は夏より大きいザックが必要ですか?
A: はい。ダウンジャケットなどの防寒着や、アイゼン、ワカンなどの雪山装備が増えるため、夏山よりも10〜20L程度大きめの容量が必要になります。
まとめ|登山スタイルに合った容量を選ぼう
登山ザックの容量選びは、自分の「行きたい山」と「泊まり方」で決まります。最後にポイントを整理します。
- 日帰り登山:20〜30Lが基本。初心者は30Lが安心。
- 山小屋泊:30〜40Lが目安。日帰り用と兼用しやすいサイズ感。
- テント泊:50〜70Lが必要。標準は60L前後。
容量の数値はあくまで目安であり、メーカーによって測定基準が異なる場合もあります。また、自分の体格に合っているかどうかが容量以上に重要です。
購入の際は、登山用品店で実際に重りを入れた状態で背負わせてもらい、フィット感を確認することを強くおすすめします。自分にぴったりの相棒(ザック)を見つけて、安全で快適な山旅を楽しんでください。


