ディスクブレーキ車のパンク修理で押さえるべきポイント
ディスクブレーキを搭載したロードバイクは、従来のリムブレーキ車とは異なる構造を持っています。そのため、パンク修理(チューブ交換)の際にもいくつか特有の注意点があります。特に重要なのが、ディスクローター、ブレーキパッド、スルーアクスルの3点です。
とはいえ、難しく考える必要はありません。チューブを外して新しいものに交換する基本的な流れは、リムブレーキ車とまったく同じです。違うのは「ホイールの外し方・付け方」だけ。ディスクブレーキ特有の「外す時の注意点」と「付ける時のコツ」さえ押さえておけば、誰でもできる作業です。
ただし、ホイールの着脱方法やブレーキ周りの扱いに誤りがあると、修理後に「ブレーキが効かない」「異音がする」といったトラブルにつながる恐れがあります。まずは、必要な道具を確認しましょう。
| 必須アイテム | ディスクブレーキ車特有の用途 |
|---|---|
| 予備チューブ | タイヤサイズとバルブ長が合ったものを用意 |
| タイヤレバー | タイヤをリムから外すために使用(2〜3本) |
| 携帯ポンプ / CO2ボンベ | 修理後の空気充填に使用 |
| パッドスペーサー | ホイールを外した際、ブレーキパッドが閉じるのを防ぐために必須(特に油圧ディスクブレーキ車) |
| マルチツール(六角レンチ) | スルーアクスルにレバーがないタイプの場合、これがないとホイールを外せません |
パンク修理前の準備と安全確保
パンクに気づいたら、まずは周囲の安全を確認し、交通の妨げにならない平坦な場所へ移動します。作業スペースを確保したら、以下の手順で自転車を準備します。
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変速機の位置を調整する
リア(後ろ)の変速を一番重いギア(外側の小さいギア)に入れます。これにより、チェーンが外側に移動し、ホイールの着脱がスムーズになります。 -
自転車を横に寝かせる
メンテナンススタンドがない出先では、自転車を横に倒して作業します。この時、必ずドライブサイド(ギアやチェーンがある右側)を上にして寝かせてください。
※油圧ディスクブレーキ車の場合、長時間「逆さま」にするとリザーバータンク内の微細な空気がキャリパー側に移動し、一時的にブレーキタッチがスカスカになることがあります。横置きがベストです。 -
付属品を外す
サイクルコンピューターやライトなど、逆さまにした時に地面に接触して破損しそうなアクセサリーは予め外しておきます。
※ディスクブレーキのローター(円盤)は非常に繊細です。油分がついたり曲がったりしないよう、絶対に地面や草木に接触させないようにしてください。
スルーアクスルの取り外し方
最近のディスクロードの多くは「スルーアクスル」という固定方式を採用しています。従来のクイックリリースとは異なり、太いシャフトをネジ込んで固定する方式です。
取り外し手順
- スルーアクスルのレバーを起こし、指の腹を使ってしっかりと保持します。
※レバーがないタイプ(六角穴タイプ)の場合は、マルチツールの六角レンチ(4mm〜6mm程度)を差し込んで回します。 - 反時計回り(左回り)に回してネジを緩めます。
- ネジが完全に緩んだら、アクスルシャフトを真っ直ぐ引き抜きます。
引き抜いたスルーアクスルにはグリスが塗布されていることがあります。砂やゴミが付着すると、再装着時にネジ山やフレームを傷める原因になります。地面に直接置かず、サドルバッグの中やジャージのポケット、または外したグローブの上などに一時保管することをおすすめします。
※余裕があれば、引き抜いたアクスルのネジ山に付いている古いグリスをティッシュで軽く拭き取ると、再装着時のネジの固着や異音を防げます。(帰宅後、余裕がある時にネジ山に薄く新しいグリスを塗っておくと、より完璧です)

RL6D 105はレバーなしタイプなので、六角レンチ(アーレンキー)が必要なタイプです。筆者は事前に練習済みでしたので、特に入れ忘れもなく準備万端ですが、もし六角レンチ持ってない&パンクだと詰むので、持ち物チェックは入念に行いましょう。レバー付きかレバーなしかは、購入時に必ず確認しておくことをおすすめします。
ホイールの取り外しとパッドスペーサーの装着
スルーアクスルを抜いたら、フレームを持ち上げてホイールを外します。この時、ディスクローターがブレーキキャリパー(車体側のブレーキ本体)に接触しないよう、慎重に真下へ落とすイメージで外します。
【重要】パッドスペーサーを即座に装着する
ディスクブレーキ車で最も気をつけるべきなのが、「ホイールを外した状態でブレーキレバーを握ってはいけない」という点です。ローターがない状態でレバーを握ると、油圧ピストンが押し出され、ブレーキパッド同士がくっついて戻らなくなってしまいます。
これを防ぐため、ホイールを外したら間髪入れずに「パッドスペーサー」をブレーキキャリパーに挿入してください。購入時に付属しているプラスチックのチップですが、もし持っていない場合は、清潔なダンボール片などでも代用可能です(緊急時のみ)。
タイヤの取り外しとチューブの点検
ホイールが外れたら、いよいよパンク修理です。
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空気を完全に抜く
バルブキャップとナットを外し、バルブの先端を緩めて押し込み、残っている空気を出し切ります。 -
タイヤレバーを差し込む
バルブの反対側(180度対角の位置)からタイヤレバーを差し込みます。ビード(タイヤの縁)をひっかけて持ち上げ、スポークに固定します。 -
タイヤを外す
1本目のレバーから10〜15cm離れた位置にもう1本差し込み、同様に持ち上げます。これを繰り返すと、片側のビードが全て外れます。 - チューブを抜く
バルブ部分を最後に残し、チューブを引き抜きます。
チューブを抜いたら、必ずタイヤの内側を指でなぞって異物がないか確認してください。パンクの原因となったトゲやガラス片が残っていると、新しいチューブを入れてもすぐにまたパンクしてしまいます。
新しいチューブの取り付け手順
新しいチューブを取り付ける際は、慎重さが求められます。「噛み込みパンク」を防ぐための手順は以下の通りです。
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少し空気を入れる
新品のペチャンコな状態ではなく、少しだけ空気を入れて丸い形を保たせます。これだけで作業効率が劇的に上がり、噛み込みのリスクも減ります。 - バルブを通す
リムのバルブ穴にチューブのバルブを通します。 -
タイヤの中に収める
タイヤの中にチューブを均等に収めていきます。ねじれている箇所がないか確認しながら進めましょう。 -
タイヤをはめる
バルブの反対側から手でタイヤのビードをリムにはめていきます。最後(バルブ付近)がきつくなりますが、なるべくタイヤレバーを使わず、親指の付け根で転がすように押し上げてください。
※どうしても硬くてはまらない場合は、すでにはまっている部分のタイヤをリムの中央(溝が深い部分)に寄せると、余裕が生まれてはめやすくなります。 -
バルブを押し込む
ビードを完全にはめる前に、バルブを一度タイヤ側にグッと押し込んでください。これにより、バルブ付近の厚いゴム部分がビードに噛み込むのを確実に防げます。特にディスク車は太いリムが多いため、このひと手間が重要です。
はめ終わったら、タイヤとリムの間にチューブが挟まっていないか、全周をチェックします。チューブが見えている状態で空気を入れると「バースト(破裂)」します。
ホイールの再装着とスルーアクスルの固定
修理が完了したホイールを車体に戻します。この段階で、先ほど装着したパッドスペーサーを取り外します。
- チェーンをカセットスプロケットの一番小さいギアに引っかけます。
- ディスクローターがブレーキパッドの隙間にスッと入るように、慎重にホイールをフレームのエンド(溝)に合わせます。無理に押し込むとローターが曲がる原因になります。
- ホイールが正しい位置に収まったら、スルーアクスルを差し込みます。
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時計回り(右回り)に回して締め付けます。スルーアクスルはクイックリリースのように「レバーを倒して固定」するのではなく、ネジを最後までしっかりと締め込むことで固定されます。
※適切な締め付けは「しっかり締めるが、全力で力を込めるほどではない」程度。多くのメーカーが指定する10〜12Nmが目安です。締めすぎるとネジ山を傷めるため、「回らなくなったら無理に回さない」を心がけてください。レバー付きタイプの場合は、最後にレバーをフレームに沿う位置に調整します。

初めてホイールを戻すときは、ローターを曲げないか本当にドキドキしました。YouTubeで事前に動画を何本か見ていたので、なんとか成功。今は慣れましたが、ぶっつけ本番は避けたほうが良いですね。自宅で一度練習しておくと、出先でも落ち着いて対処できます。
空気入れと動作確認
最後に空気を入れ、安全に走行できるかを確認します。
- 空気圧の確認:携帯ポンプでは高圧まで入れるのが大変ですが、指で押してしっかり反発がある状態(目安として3〜4気圧以上)までは頑張って入れましょう。CO2ボンベがあれば一瞬で充填可能です。
- ブレーキの確認:ホイールを空転させ、ブレーキレバーを握ってしっかり止まるか、異音がしないかを確認します。
- がたつき確認:ホイールを横に揺すり、ガタがないかチェックします。
よくあるトラブルと対処法
パッドスペーサーを忘れてレバーを握ってしまった
最も多いトラブルです。パッド同士がくっついてホイールが入らなくなった場合、プラスチック製のタイヤレバーをパッドの隙間に差し込み、テコの原理で優しく押し広げることで戻せる場合があります。
※金属製のマイナスドライバーを使う場合は、必ずパッドの表面(金属バックプレート側)に当てるようにし、セラミック製ピストンやパッドの摩擦材に直接触れないよう細心の注意を払ってください。傷つけるとオイル漏れや制動力低下の原因になります。応急処置後は、必ずショップで点検を受けることを強く推奨します。
チューブが噛んでバーストした
空気を入れている途中で「パンッ!」と破裂するのは、チューブがタイヤとリムの間に挟まっていた証拠です。これを防ぐには、空気を入れる前の全周チェックを怠らないことが唯一の対策です。
ブレーキが鳴る・効きが悪い
作業中にディスクローターにチェーンオイルや手の油分が付着した可能性があります。出先では対処が難しいですが、アルコールティッシュなどでローター面を拭くことで改善する場合があります。油分厳禁はディスクロードの鉄則です。
出先でのパンク修理に必要な携帯品
ディスクブレーキ車でロングライドに出かける際は、以下の装備を必ず携行しましょう。
| カテゴリー | アイテム名 |
|---|---|
| 必須 | 予備チューブ(1〜2本)、タイヤレバー、携帯ポンプ(またはCO2ボンベ)、パッドスペーサー |
| 推奨 | 使い捨て手袋(油汚れ防止)、タイヤブート(タイヤ裂け用)、ウェットティッシュ(ローター清掃用) |
よくある質問(FAQ)
ディスクブレーキ車のパンク修理はリムブレーキより難しいですか?
手順自体はほとんど変わりませんが、スルーアクスルの着脱とパッドスペーサーの扱いという2工程が増えるため、慣れるまでは少し手間に感じるかもしれません。しかし、コツを掴めばリムブレーキ車と同様にスムーズに行えます。
パッドスペーサーをなくしてしまいました。代用品はありますか?
緊急時は、キレイなダンボール片や厚紙を折り畳んでパッドの間に挟むことで代用可能です。油分を含んだものや、パッドを傷つける硬い金属などは避けてください。
チューブ交換にかかる時間の目安は?
慣れている人であれば10分〜15分程度です。初心者の場合、最初は30分以上かかることもありますが、焦らず丁寧に行うことが大切です。
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まとめ:練習して自信をつけよう
ディスクブレーキ搭載ロードバイクのパンク修理は、「スルーアクスルの扱い」と「パッドスペーサーの装着」さえ忘れなければ、決して難しいものではありません。
筆者自身もANCHOR RL6D(105油圧ディスクモデル)に乗っており、最初のパンク修理では「レバーがないスルーアクスルに六角レンチが必要」という点を見落として焦った経験があります。RL6Dをはじめとする105グレード以上のディスクロード乗りの方は、必ず6mm六角レンチ付きのマルチツールを携帯してください。レバーを回すだけでは外せないタイプが多いです。
炎天下や寒空の下、あるいは交通量の多い道路脇で初めての作業を行うのはパニックの元です。ぜひ一度、自宅の安全な環境で予行練習を行ってみてください。一度でも手順を通しておけば、万が一の時も落ち着いて対処でき、安全にライドを再開できるはずです。
私がディスクブレーキ車(ANCHOR RL6D 105)に乗り始めたのは2020年。それまでリムブレーキでチューブ交換はできていたので、「まあ大丈夫かなー」くらいに思っていました。ところが実際に調べ始めてみると「ん?ホイール外すの面倒くさくないか?」とちょっと不安に。でも実際やってみると、基本的な流れはリムと一緒。ホイールの着脱だけ違うだけで、そこまで難しくないですよ。