はじめに|静かな紅葉を歩く秋の関東トレッキング
紅葉トレッキングの魅力とは
秋の澄んだ空気の中で歩く紅葉トレッキングは、ただ景色を見るだけでなく、身体で秋を味わえる特別な体験です。葉が色づき始めると、山や渓谷の景色は一変し、木々のトンネルや落ち葉の絨毯が自然の芸術をつくり出します。静けさの中に足音だけが響く感覚は、日常から解き放たれるような心地よさがあります。
とくに関東では、標高や地形の違いから長い期間にわたって紅葉を楽しむことができ、都心から日帰りで訪れることが可能なスポットも多くあります。紅葉狩りと合わせて、軽いハイキングやトレッキングで自然を満喫するのが秋の楽しみ方としておすすめです。
今回の選定基準
本記事では、初心者〜中級者が安心して歩けるトレッキングルートの中から、混雑を避けたい人に向けた“ややマイナー”な紅葉スポットを厳選しました。観光地化された人気ルートではなく、静けさと自然の美しさが両立したコースを中心に、関東エリアから5つご紹介します。
滝や渓谷、低山や縦走路など、バリエーション豊かなコースを選びましたので、紅葉だけでなく自然の多彩な表情を感じながら歩けるはずです。秋の休日、自然と向き合う贅沢な時間をぜひ楽しんでみてください。
養老渓谷(千葉)|滝と紅葉が織りなす渓谷美
房総半島のほぼ中央に位置する養老渓谷は、千葉県を代表する紅葉の名所の一つ。渓谷沿いに流れる養老川には遊歩道が整備され、滝や奇岩、広葉樹が織りなす景観を楽しみながら、ゆったりとしたトレッキングが可能です。中でも粟又の滝から中瀬遊歩道にかけての区間は、紅葉と水辺の美しさが同時に味わえる絶好のコース。例年11月中旬〜下旬が見頃で、関東の中でも遅めの紅葉が楽しめるのも魅力のひとつです。
― アクセス
小湊鐵道・いすみ鉄道「養老渓谷駅」から徒歩約40分(粟又の滝入口まで)/粟又の滝入口までバスあり(土日祝のみ運行)
― トレッキング難易度
★★☆☆☆(整備された遊歩道)
― おすすめポイント
落差30mの粟又の滝と紅葉の共演
川沿いの木道でアップダウンが少ない
晩秋まで紅葉が楽しめる関東の穴場
日帰り温泉や足湯も楽しめる
見どころ1|粟又の滝と中瀬遊歩道

養老渓谷で最も有名なのが「粟又の滝」。幅広く流れ落ちる様子は「房総のナイアガラ」とも称され、秋にはその背景に赤や黄色の紅葉が加わり、絵画のような風景に。滝を起点に中瀬遊歩道を歩くと、清流沿いに奇岩や小
見どころ2|晩秋に染まるモミジと水辺のコントラスト

養老渓谷の紅葉は、11月中旬から下旬にかけてが見頃。モミジやカエデ、クヌギなどが色づき、渓流の青とのコントラストが映えます。紅葉越しに見える水面や、落ち葉の積もった岩場は静けさと情緒を感じさせ、カメラを構えたくなる景色の連続です。紅葉狩りと合わせて、渓谷沿いの温泉施設や足湯に立ち寄るのもおすすめです。
海沢渓谷(奥多摩)|苔と紅葉が彩る静寂の谷
奥多摩の中心地から少し離れた場所に位置する海沢渓谷(うなさわけいこく)は、滝と苔と紅葉が織りなす静かな谷あいのトレッキングコースです。メジャーな御岳山や奥多摩湖と比べて訪れる人は少なく、自然の音に包まれながら歩ける穴場的な存在。ルートはしっかり踏み跡がありながらも手つかずの雰囲気が残されており、初心者でも慎重に歩けば十分に楽しめます。滝と紅葉の両方が見られる貴重なルートで、見頃は例年11月上旬ごろです。
― アクセス
【推奨アクセス】
白丸駅利用 ・JR青梅線「白丸駅」から数馬峡遊歩道経由で海沢園地へ ・距離:約4km ・所要時間:約1時間20分 ・奥多摩駅からより約40分短縮
【代替アクセス】
奥多摩駅利用 ・JR青梅線「奥多摩駅」から海沢林道経由で海沢園地へ ・所要時間:約2時間 ・タクシー利用:約10分(料金約2,000円)
― トレッキング難易度
★★★☆☆(岩場・沢沿い歩きあり)
― おすすめポイント
三つの滝(ネジレ・大滝・三ツ釜)を巡る静かな沢歩き
紅葉と苔のコントラストが美しい
観光客が少なく落ち着いた雰囲気
手軽に“山奥感”が味わえる奥多摩の穴場
見どころ1|三つの滝をめぐる変化に富んだ道

ルートの目玉は、ネジレの滝・大滝・三ツ釜の滝という3つの個性豊かな滝。それぞれが異なる景観を持ち、苔むした岩や清流の流れとともに、季節の色づきを楽しませてくれます。滑りやすい箇所や軽い渡渉もあるため、スニーカーではなくトレッキングシューズが望ましいですが、体力的にはそこまで厳しくないコースです。
見どころ2|紅葉と苔むす岩が織りなす幻想的風景

海沢渓谷では、渓流沿いにモミジやカエデの紅葉が広がり、その足元には一面の苔むした岩や倒木が広がります。日差しが差し込むと、紅葉の赤や黄と、苔の深い緑が重なり合い、まるで絵本のような幻想的な風景に。写真を撮りながらゆっくり進むと、自然との一体感を深く味わえるトレイルです。
弘法山〜権現山(神奈川・秦野)|富士山と紅葉が映える里山縦走
神奈川県秦野市にある弘法山公園〜権現山への縦走路は、手軽に歩ける里山ながらも、紅葉や展望、歴史的な雰囲気を兼ね備えた散策向きのトレッキングルートです。東名高速や市街地の近くにありながら、登山道に入ると静かな自然に包まれ、秋にはモミジやイチョウが彩る里山の風景が広がります。晴れた日には、展望台から富士山を望むこともできる絶好のロケーション。紅葉の見頃は11月下旬で、比較的遅くまで楽しめるのも特徴です。
― アクセス
小田急小田原線「秦野駅」より徒歩約35分で弘法山公園入口へ
または秦野駅北口から秦25系統「曽屋弘法行き」バス(約10分)で「弘法山入口」下車、徒歩約10分
― トレッキング難易度
★☆☆☆☆(初心者向け)
― おすすめポイント
都心からのアクセスが抜群
展望台からの富士山と紅葉の眺望
広葉樹が多く、色づきが豊か
地元に愛される静かな散策路
見どころ1|弘法山公園の紅葉と展望台

弘法山には歴史ある寺社跡や桜並木が点在し、秋になると紅葉に包まれた穏やかな雰囲気が広がります。公園内の展望台からは、相模平野を見渡す開放的な景色が楽しめ、空気が澄んだ日には遠く富士山の姿も。標高は低いながらも、「登った感」のある気持ちよさが味わえます。
見どころ2|縦走路から望む丹沢の山並みと富士山

弘法山から権現山までの縦走路はよく整備されており、アップダウンも少なく歩きやすいのが特徴。縦走路沿いにはモミジやコナラが色づき、紅葉のトンネルのような景色が続きます。人も少なく、のんびりと歩きながら、所々で木々の間から覗く富士山や丹沢の山並みを眺められるのがこのルートの醍醐味です。
鳴虫山(栃木・日光)|静けさと展望に出会う秋の低山
世界遺産・日光東照宮などの観光地から程近い場所にありながら、鳴虫山(なるむしやま)は比較的静かなハイキングが楽しめる紅葉スポットです。標高1,104mの低山でありながら、登山道はしっかりしていて歩きごたえがあり、山頂からは日光連山や男体山の展望が広がります。登山道には杉並木や落葉広葉樹が多く、10月下旬〜11月上旬には紅葉に包まれた道が続きます。観光地の喧騒を離れて、自然の静けさを感じられる日光の隠れた名ルートです。
― アクセス
東武日光線「東武日光駅」から徒歩約15分で登山口
― トレッキング難易度
★★★☆☆(やや急登あり、下りは慎重に)
― おすすめポイント
駅から歩いて登れる静かな紅葉ルート
山頂からの日光の展望が美しい
観光ついでに楽しめる半日トレッキング
杉林から広葉樹林への変化が豊か
【注意事項】
足元が悪い箇所があるため、トレッキングシューズの着用を推奨。 初心者の方は慎重に歩行してください。
見どころ1|紅葉に包まれた杉並木のアプローチ

登山口からしばらくは杉の古木が立ち並ぶ静かな林の中を進みます。そこから徐々に標高を上げるにつれて、コナラやカエデなどの広葉樹が増え、色とりどりの紅葉に囲まれた登山道へと変化します。落ち葉が積もった山道は滑りやすい箇所もあるため、防滑性の高い登山靴がおすすめです。
見どころ2|山頂からの日光連山と街の絶景

標高1,000mほどとは思えない開放的な山頂からは、男体山をはじめとする日光連山が一望でき、足元には日光の街並みや東照宮方面が広がります。澄んだ秋の空気の中で、紅葉と山々の重なりを眺める時間は格別です。日帰りでもしっかり“登山感”を味わえる貴重なルートです。
金蔵落しと大血川渓谷遊歩道(埼玉・秩父)|知られざる渓谷紅葉ルート
秩父の山深くに位置する大血川(おおちがわ)渓谷は、紅葉シーズンでも比較的静けさが保たれる穴場のトレッキングスポットです。中でも金蔵落し(かねくらおとし)と呼ばれる滝周辺は、水と紅葉の美しいコントラストを楽しめるポイント。整備された遊歩道が続いており、家族連れでも安心して歩けるのに、深山の雰囲気が漂うのが魅力です。紅葉の見頃は10月下旬〜11月上旬で、広葉樹の黄や赤が渓谷を彩ります。
― アクセス
西武秩父線「西武秩父駅」または秩父鉄道「御花畑駅」からバスで約40分(約600-800円程度)、「大血川渓谷入口」下車すぐ
― トレッキング難易度
★★☆☆☆(整備された遊歩道、一部ぬかるみあり)
― おすすめポイント
-
金蔵落しの滝と紅葉のコントラスト
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渓谷沿いの静かな紅葉道を気軽に歩ける
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混雑しない秩父の穴場スポット
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近隣に日帰り温泉や観光名所も点在
見どころ1|落差ある滝と静かな渓谷道

金蔵落しは落差約15mの段瀑で、岩肌を滑るように水が流れ落ちる様が印象的。周囲の木々が赤や黄色に染まる時期には、水しぶき越しに紅葉が映える絶景が広がります。遊歩道は川沿いに続き、滝やせせらぎの音を聞きながらのんびりと歩くことができます。道幅も広く、アップダウンも少ないため、体力に不安のある方でも安心です。
見どころ2|足元の落ち葉と頭上の紅葉トンネル

このルートのもうひとつの魅力は、道を覆うように枝を広げる木々。紅葉のピークには、頭上に色とりどりの葉が重なり合う紅葉トンネルが出現し、足元にはふかふかの落ち葉の絨毯。渓谷ならではの湿潤な空気と静けさが加わり、まるで森に包まれているような感覚が味わえます。散策の後には、近くの「大滝温泉 遊湯館」などで温まるのもおすすめです。
紅葉トレッキング前に知っておきたいQ&A
Q. 紅葉の見頃はどこで確認できますか?
紅葉の進み具合は場所や標高によって異なるため、訪問前に最新情報をチェックするのが安心です。YAMAPなどの登山アプリや、各地の観光協会の公式サイト、SNSでのリアルタイム投稿が有力な情報源となります。
Q. 紅葉シーズンは混雑しませんか?
有名観光地では混雑することもありますが、今回紹介したコースはいずれも比較的静かなルートです。とくに平日や朝早い時間帯を狙うことで、より落ち着いて紅葉を楽しむことができます。
Q. 紅葉トレッキングに必要な装備は?
基本装備としては、滑りにくいトレッキングシューズ、防寒着、雨具、飲み物、軽食などが必要です。紅葉の時期は日没が早いため、ヘッドライトも必ず携行しましょう。足元が濡れていたり落ち葉で滑りやすくなっている場所もあるので、装備は万全に整えて出かけるのがおすすめです。
Q. 子どもや初心者でも歩けるコースはありますか?
はい。養老渓谷や弘法山のコースは遊歩道や緩やかな登りが中心で、初心者やファミリーでも安心して楽しめます。事前にルートの距離や高低差を確認し、無理のない計画を立てることが大切です。
Q. トレッキングのあとに立ち寄れる温泉はありますか?
多くのコース周辺には日帰り温泉施設があります。例えば、養老渓谷には「ごりやくの湯」、秩父の大血川渓谷には「大滝温泉 遊湯館」などがあり、紅葉トレッキング後の疲れを癒すのにぴったりです。
まとめ|秋の静かな関東トレッキングへ出かけよう
関東には、都心から日帰りでアクセスできるにもかかわらず、静かに紅葉を楽しめるトレッキングコースが数多く存在します。今回ご紹介した5つのルートは、いずれも初心者〜中級者が安心して歩ける内容で、観光地の混雑を避けながら、秋ならではの絶景を堪能できる場所ばかりです。
滝と紅葉の共演が楽しめる養老渓谷、苔と渓谷が織りなす奥多摩の海沢渓谷、富士山と紅葉を望む里山・弘法山縦走路、日光の静かな展望ルートである鳴虫山、そして深い森と渓谷に包まれる秩父・大血川渓谷。どのルートにもそれぞれの魅力があり、自分に合った場所を選ぶ楽しさもあります。
紅葉の季節は日が短く、朝晩の冷え込みもありますが、そのぶん空気は澄み、風景は一層美しく映ります。準備をしっかり整えて、ぜひ秋の関東を静かに歩くトレッキングへと出かけてみてください。この季節にしか出会えない景色が、きっと心に残るはずです。