はじめに|歴史と自然の巨木を巡る癒しの歩み
栃木の自然と文化が育んだ巨木たち
栃木県には、長い年月をかけて育まれた圧倒的な存在感の巨木たちが点在しています。日光の杉並木、那須の自然林、奥山に眠るブナの森など、地域ごとに異なる表情を見せる森の主たちは、まるで静かに語りかけてくるようです。これらの巨木は、ただの観光スポットではなく、歴史や信仰と深く結びついた“生きた文化遺産”でもあります。
初心者でも歩きやすいトレッキングルートを厳選
今回ご紹介するのは、初心者から中級者まで楽しめる栃木県の巨木スポットを巡る5つのルートです。どれもアクセスが良好で、比較的歩きやすいコースばかりを選びました。森の中を歩きながら、目の前に現れる圧巻の巨木に癒される——そんな心地よい時間を体験してみませんか?
霧降高原(日光市)|苔むす森に佇むミズナラの巨木
霧降高原は、日光市の中心部から車で20分ほどの場所に広がる、標高約1,300mの自然豊かな高原地帯です。とくに人気の丸山ハイキングコースは、標高差が比較的緩やかで、初心者にも安心して歩けるルートとして知られています。木道や緩やかな登山道を進むと、ミズナラやカエデ、シロヤシオといった樹木に囲まれた苔むす森が現れ、その中に樹齢数百年と見られるミズナラの巨木が静かに佇んでいます。
湿潤な気候により足元にはコケが広がり、日差しの差し込む森の風景はまるで絵画のよう。特に春の新緑や秋の紅葉シーズンには、季節ごとに異なる表情を見せる巨木との出会いが楽しめるでしょう。
― アクセス
JR日光駅からバスで約30分「霧降高原」下車、登山口まで徒歩5分
― トレッキング難易度
★★☆☆☆(整備された登山道)
― おすすめポイント
木道が整備された歩きやすいコース / ミズナラやカエデなどの落葉広葉樹が美しい / 季節ごとの変化が豊かで、初心者にも最適
苔むす登山道と幻想的な森の空気
霧降高原の魅力のひとつは、湿度の高い地形が育む苔の絨毯です。特に雨上がりには苔がしっとりと輝き、森全体が幻想的な雰囲気に包まれます。木漏れ日と苔、静寂の中に佇むミズナラの姿は、まさに癒しの風景です。
丸山展望台からの絶景も見逃せない
登山道の先には丸山展望台があり、晴れた日には日光連山や那須方面まで見渡すことができます。巨木に会いに行くだけでなく、歩いた先にご褒美のような景色が待っているのも、このコースの大きな魅力です。
日光杉並木街道(日光市)|世界最長の杉並木で巨木に包まれる
世界遺産・日光東照宮へと続く参道のひとつ「日光杉並木街道」は、全長約37kmにわたって約1万2,000本の杉が立ち並ぶ世界最長の並木道です。江戸時代初期、徳川家康を祀るために植えられたとされるこの杉並木は、特別史跡および特別天然記念物の二重指定を受けている全国唯一の文化財でもあります。
この並木道の魅力は、その歴史的背景だけでなく、杉の一本一本が樹齢数百年の巨木として今もなお生き続けていることにあります。なかには、幹に大きな空洞があり人が入れるほどの「並木ホテル」や、他の木と共生する珍しい「桜杉」といったユニークな個体も見られます。
舗装された旧街道や遊歩道が整備されており、短時間で歩ける区間も多いため、トレッキングというよりは“巨木と歴史を味わう散策”としてもおすすめです。
― アクセス
JR日光駅から徒歩またはバス、複数の並木入口あり(今市・日光・大沢方面など)
― トレッキング難易度
★☆☆☆☆(平坦な遊歩道・舗装区間あり)
― おすすめポイント
世界最長の杉並木で圧巻の巨木群 / 江戸時代から続く歴史的参道 / 短時間でも立ち寄れる複数のルートあり
並木の中を歩くだけで心が落ち着く
杉の巨木がつくる天然のトンネルは、夏は涼しく、冬は静寂に包まれます。観光客の少ない朝の時間帯に訪れれば、歴史と自然が共存する空間で、静かな時間を過ごすことができるでしょう。
車道脇にも巨木、歩行者ルートの選択を
並木街道の一部は国道沿いの車道となっていますが、歩行者用の遊歩道が設けられている区間も多くあります。できるだけ安全な散策ルートを選びながら、ゆっくりと巨木の魅力に浸るのがおすすめです。
霧降の滝周辺(日光市)|森に囲まれた滝道で出会う大木たち
霧降高原から少し下った場所に位置する「霧降の滝」は、落差75mを誇る日光有数の名瀑。観瀑台までの遊歩道はよく整備されており、自然散策を楽しみながら大木と出会える穴場ルートとして知られています。
滝へ向かう道中には、ミズナラやカツラ、ホオノキなどの落葉広葉樹の大木が立ち並び、四季折々に美しい森の風景を演出しています。春は芽吹き、夏は濃緑、秋は色づく紅葉、冬は枝ぶりの美しさと、巨木の持つ魅力が一年を通して味わえるスポットです。
周囲に人気の観光地も多いため、アクセスしやすく、トレッキング初心者でも気軽に立ち寄れるコースとなっています。
― アクセス
JR日光駅からバスで約15分「霧降の滝入口」下車、徒歩約10分
― トレッキング難易度
★☆☆☆☆(観瀑台まで整備済の遊歩道)
― おすすめポイント
滝と巨木のコラボレーションが美しい / カツラやホオノキなどの大木が見事 / 季節ごとの風景変化が楽しめる
滝の音と森の香りに包まれる癒しの道
遊歩道を歩くうちに、徐々に滝の音が近づいてきます。途中の森には、**深く根を張った大木たちが静かに佇み、訪れる人々を迎えてくれます。**滝と木々が織りなす風景は、どこか懐かしく、深い安らぎを与えてくれる空間です。
滝見台からの眺めも圧巻
終点の観瀑台からは、二段に分かれて流れ落ちる霧降の滝を間近に見ることができます。滝壺から立ち上がる水煙が光に照らされて輝き、木々と水が織りなすダイナミックな自然美を堪能できます。
湯西川・中山峠のブナ林(日光市)|秘境に眠る巨樹群と静寂の森
日光市の奥地、湯西川温泉からさらに山奥へと分け入った中山峠周辺には、人の手がほとんど入っていない原生的なブナ林が残されています。このエリアは観光地化されていないため、道中のアクセスこそやや難がありますが、それゆえに出会える自然の姿は、手つかずの迫力に満ちています。
ブナの巨木が立ち並ぶ森は、春にはやわらかな新緑、秋には黄金色の紅葉と、季節ごとに美しい表情を見せてくれます。とくに標高1,200m付近の稜線沿いでは、樹齢200年以上と推定される太い幹のブナが多く見られ、林床にはシダやコケも広がるなど、非常に豊かな植生が魅力です。
静けさと原始性を兼ね備えたこの場所は、まさに“巨木と対話するための森”と呼ぶにふさわしい空間です。
― アクセス
湯西川温泉駅からバスで「湯西川温泉」下車、車で林道を約30分(マイカー推奨)
― トレッキング難易度
★★★☆☆(整備されていない区間あり・軽登山装備推奨)
― おすすめポイント
樹齢200年以上のブナが点在する原生林 / 静寂と野性味のある雰囲気 / シーズンごとの景色が美しい
登山地図にない“歩く人だけが知る道”
中山峠周辺は、明確な登山道があるわけではなく、林道や古道、踏み跡を頼りに歩くスタイルになります。登山アプリやGPSを併用しながら、自然との距離を縮めるような探索型トレッキングがおすすめです。
静けさの中に感じる生命の鼓動
鳥の声と風の音しか聞こえない森の中で、苔むすブナの大木と出会ったとき、言葉にできないような感動が静かに胸に広がります。華やかさとは無縁の、深い癒しを求める人にこそ訪れてほしい場所です。
那須平成の森(那須町)|生態系と共に守られる自然林の主
那須町に位置する「那須平成の森」は、かつての那須御用邸用地を一般開放した自然保護エリアで、原生的なブナ林と豊かな動植物が息づく場所です。広さは560ヘクタール以上。敷地の多くは立入制限がある「学びの森」となっていますが、散策可能な「ふれあいの森」エリアでは、**樹齢200〜300年とされるブナの巨木「ブナ太郎」**をはじめとした巨樹を間近に観察できます。
整備された遊歩道があり、初心者でも無理なく自然とふれあえるのが魅力。案内所では季節ごとの見どころや自然ガイドも用意されており、自然観察や環境学習のフィールドとしても親しまれています。ゆったりとした時間が流れる森の中で、木々の息づかいを感じるようなひとときを過ごせるスポットです。
― アクセス
JR黒磯駅からバスで約35分「那須平成の森」下車(または那須ICから車で約25分)
― トレッキング難易度
★★☆☆☆(整備された自然観察路)
― おすすめポイント
ブナ太郎をはじめとするブナの巨木 / 自然観察に適した静かな遊歩道 / 御用邸の歴史と自然が調和した空間
ブナ太郎に会いに行こう
「ふれあいの森」のハイライトともいえるのが、幹周約3.3mのブナの巨木「ブナ太郎」。周囲の若木とは異なるその風格と存在感は圧倒的で、四季折々の森とともに訪れる人々を魅了しています。
野鳥や動物の気配が残る静かな森
遊歩道を歩いていると、キビタキやゴジュウカラといった野鳥のさえずりが聞こえたり、運が良ければニホンカモシカの足跡を見つけたりすることも。人工物の少ない森の中は、まさに自然の懐に抱かれているような穏やかな空気に包まれています。
行く前に知っておきたい!巨木トレッキングQ&A
Q1. 栃木県の巨木トレッキングは初心者でも楽しめますか?
はい。今回ご紹介したルートの多くは、整備された遊歩道や木道が中心で、初心者でも無理なく歩けるコースばかりです。特に霧降高原や那須平成の森は、道幅も広く標高差も少ないため、初めての方にもおすすめです。
Q2. 巨木を見るベストシーズンはいつですか?
新緑が美しい5月〜6月、紅葉が鮮やかな10月〜11月が特におすすめです。夏は涼しく歩け、冬季は一部エリアで閉鎖や積雪があるため、事前確認をおすすめします。
Q3. アクセスは車が必要ですか?
公共交通でアクセス可能なスポットも多くあります。霧降高原、日光杉並木街道、那須平成の森などは、JR駅やバス停からの徒歩圏内に登山口があるため、マイカーがなくても訪問可能です。ただし中山峠のブナ林など一部は車がないと厳しい場所もあります。
Q4. 持ち物や装備で気をつけるべきことは?
歩きやすい靴(トレッキングシューズ推奨)、防寒・防水の上着、虫よけ、飲み物、簡単な行動食は必携です。山間部では急な天候変化もあるため、レインウェアや帽子なども忘れずに持参しましょう。
Q5. 写真撮影に適した時間帯や注意点は?
午前中の柔らかい光の時間帯がおすすめです。逆光になりにくく、森全体が明るく写ります。また、巨木は近づきすぎると全体像を撮影しにくいため、少し距離を取って広角レンズやスマホの広角モードを活用するとよいでしょう。
まとめ|自然と歴史が織りなす巨木の道を歩こう
栃木県には、日光や那須をはじめとした自然豊かな地域に、長い年月を生き抜いてきた個性豊かな巨木たちが数多く息づいています。それぞれの木には、地域の歴史や信仰、自然環境との深いつながりがあり、ただ眺めるだけではなく、歩いて近づくことでその存在感と魅力をより深く感じ取ることができます。
今回ご紹介した5つのルートは、いずれも初心者でも無理なく歩けるアクセス性の高いコースを中心に選びました。苔むす登山道や歴史ある杉並木、原生的なブナ林まで、どのルートも自然との距離がぐっと近づく貴重な体験が待っています。
忙しい日常を離れて、深呼吸したくなるような森へ。一本の巨木との出会いが、旅の記憶をぐっと深くしてくれるはずです。
次の休日には、栃木の巨木に会いに出かけてみませんか?