あまとみトレイルとは?|この記事でわかること
あたらしく生まれた、地元発のロングトレイル

「信越五岳をぐるりと歩いてみたい」「観光地じゃない静かな山道を歩きたい」
そんな“もう一歩”を踏み出したくなる人にこそおすすめしたいのが、あまとみトレイルです。
これは、令和3年(2021年)10月に一部開通したばかりの新しいロングトレイル。
長野駅を起点に善光寺、戸隠、黒姫、妙高・笹ヶ峰、野尻湖を経て、斑尾山まで至る全長約86km。
今後は日本海側の小谷村・糸魚川市方面への延伸も構想されています。
このトレイルの特徴は、「地域の人々と一緒に歩いて選び抜いた道」であること。
既存の登山道や林道、古道などを繋ぎながら、自然や文化、環境への配慮を重ねて設計されました。
だからこそ、風景だけでなく“暮らしの匂い”や“人の営み”が感じられる道になっています。
名前に込められた“土地へのまなざし”
トレイル名の「あまとみ」は、実はこの地域を代表する4つの山の頭文字から来ています。
あ=雨飾山(あまかざりやま)[西]
ま=斑尾山(まだらおやま)[東]
と=戸隠山(とがくしやま)[南]
み=妙高山(みょうこうさん)[北]
4方から囲むように存在するこれらの山々が、ルートを立体的に支えています。
自然と信仰、歴史、そして地域の暮らしをつなぐ道として、名前にも“この土地らしさ”が凝縮されています。
この記事では、
あまとみトレイルの成り立ちと歩く魅力
必要な装備や気象条件への備え
セクションごとの見どころと歩き方のポイント
などを、実体験ベースでわかりやすく紹介します。
「ただ歩く」だけじゃない旅を、ここから始めてみませんか?
五岳をつなぐ86kmの道|あまとみトレイルの概要
信越五岳をつなぐルートと2つの起点
あまとみトレイルは、長野県と新潟県の県境にまたがる全長約86kmのロングトレイル。
起点・終点の設定は2通りあり、どちらから歩いても楽しめるのが魅力です。
長野駅起点ルート:善光寺~戸隠~黒姫山麓~妙高・笹ヶ峰
斑尾山頂起点ルート:野尻湖~いもり池~苗名滝~妙高・笹ヶ峰
いずれのルートも、信越五岳と呼ばれる名山(斑尾山、妙高山、黒姫山、戸隠山、飯縄山)を望みながら歩くことができ、土地のスケール感を体で感じることができます。
また、北側では信越トレイルと接続しており、縦走やエリア拡張の自由度も高め。
将来的には、糸魚川・日本海方面へつながる構想も進行中です。
観光地の裏手にある、“暮らしと祈り”の道

このトレイルの面白さは、単なる登山道でもなく、観光地の整備道でもないところ。
善光寺や戸隠神社といった信仰の場を結ぶ参詣道の延長でありながら、
地元の人がかつて薪を取りに歩いた道、牧場脇を通る林道、そして深い森の静けさ……。
名所もあれば、誰にも気づかれないような“何でもない風景”もある。
けれどそこに、土地と人とのつながりが確かに感じられるのです。
整備された道標はあるものの、MAPBOOKやGPSの携行が必要な場所も多く、
「自分の足でたどる旅」をじっくり楽しみたい人にぴったりのルートです。
歩くならここを押さえたい|代表的な見どころとハイライト
信仰と自然が交差する「戸隠エリア」

あまとみトレイルの前半を歩くなら、外せないのが善光寺から戸隠へ続く古道エリア。
長野駅を起点に、善光寺の門前を抜け、かつて修験者が歩いた戸隠古道へと入っていきます。
善光寺(ぜんこうじ):全国から参拝者が訪れる長野のランドマーク
大座法師池:戸隠高原の森と水を感じる静かなスポット
戸隠神社(とがくしじんじゃ):杉並木が荘厳な雰囲気を醸すパワースポット
“観光”ではなく、“歩く”からこそ味わえる土地の空気。
道のりの途中には民宿やカフェも点在し、歩くペースで地域と出会えるのも魅力です。
湖と森と火山地形の変化を楽しむ「信濃町~妙高エリア」
ルートの後半は、野尻湖〜妙高・笹ヶ峰にかけてのエリア。
ここは信越五岳をぐるりと回る風景の変化が楽しいエリアで、自然のスケール感が一気に増していきます。
野尻湖(のじりこ):ナウマンゾウで知られる湖畔リゾート
いもり池:妙高山を正面に望む絶景フォトスポット
苗名滝(なえなたき):轟音が響く“地震滝”と呼ばれる名瀑
笹ヶ峰高原:広大な放牧地とブナ林の森を歩く高原セクション
このあたりは標高差があり、気温差・天候の変化も激しいですが、
その分、季節の移ろいと風景のダイナミズムをじっくり味わえます。
スルーハイク&セクションハイクの歩き方ガイド
全線踏破するなら|スルーハイクの基本情報

あまとみトレイル全体(86km)を一気に歩く「スルーハイク」は、5月中旬〜11月中旬がシーズン。
特におすすめは、天候が安定しやすく紅葉も美しい9月〜10月です。
一般的なペースでは、4〜5日間で踏破可能。
ただし、途中に見どころが多く、「ちょっと寄り道したくなる場所」がたくさんあるため、
1週間ほどかけてゆっくり歩く旅にするのがベストです。
冬季は吊り橋の踏み板が撤去されるなど、通行困難な区間が発生します。
積雪状況は年によって異なるため、必ず公式サイトで最新情報をチェックしましょう。
【ポイント】
山小屋やテント泊ではなく、民宿・宿泊施設をつなぐスタイルが基本
移動手段を含めた“町との接点”を活かすことで、荷物を軽くできる
体力よりも「地図読み・計画力・調整力」が試されるルート
自分のペースで楽しむ|セクションハイクのすすめ

全線を通しで歩くのは難しい…という人には、セクションハイク(区間歩き)がおすすめです。
アクセスしやすい場所から区間を区切り、日帰り〜1泊程度で楽しめるコースを選びましょう。
とくに人気があるのは以下のようなセクション:
善光寺〜戸隠神社(古道と信仰を感じるルート)
野尻湖〜笹ヶ峰(高原と火山地形を楽しむ区間)
戸隠高原〜黒姫山麓(静かな森とローカルな空気)
また、夏は日中がかなり暑くなり、熱中症のリスクも。
一方、朝晩は冷え込むので防寒着と暑さ対策の両立が必要です。
セクションハイクでも地図とルート確認は欠かせません。
MAPBOOK+スマホGPS+道標の3つを併用するのが安心です。
ちなみに、戸隠の古道を歩く前か後にこんな本もおすすめです。
私は前に読む派ですが、事前に知識を入れてから現地を訪れるとありがたみというか、感慨深さというか、没入感が変わってくる感じがして好きです。
安全に歩くための準備と装備
地形・天候に合わせた装備選びがカギ

あまとみトレイルは、観光地の散策路とは違い、山道や未舗装の林道を多く含む本格的なロングトレイルです。
装備に油断は禁物。以下のような基本装備は必須です。
トレッキングシューズ(軽登山靴):滑りにくく、長距離に適したものを
雨具(レインウェア上下):午後の雷雨や霧雨に備えて常備
保温着(フリースやダウン):朝晩の冷え込みは予想以上
ザック(30〜40L程度):軽量かつ背負い心地のよいモデルを選択
モバイルバッテリー・ヘッドライト:万が一の遅れやトラブルに備えて
また、ルート上には案内標識もありますが、
雪や落枝で見えづらくなることもあるため、MAPBOOKとスマホGPSは必ず併用しましょう。
【ワンポイント】
水場の情報やエスケープルートも記載された公式MAPBOOKは非常に実用的。
冊子1冊で安心感が格段に上がります。
野外ならではのリスクにも備えよう

自然豊かなコースゆえ、以下のようなトラブルリスクも想定しておきましょう。
水場の枯渇:夏場は水源が干上がることも。1〜2Lを常時携帯し、沢の水は煮沸 or 浄水器使用を推奨
ツキノワグマとの遭遇:特に戸隠〜黒姫山麓では目撃例も。クマ鈴、ラジオ、会話で音を出しながら歩こう
虫刺され・ブヨ・マダニ:夏は肌の露出を避け、虫除け・ポイズンリムーバーもあると安心
熱中症:7〜8月の高温に要注意。帽子とネッククーラー、水分+塩分補給がカギ
交通事故(車道横断):一部林道や舗装路をまたぐ区間もあり、クルマの存在も忘れずに
また、ゴミ箱はほぼ無いため、ペットボトルや食べ残しなどはすべて持ち帰るのがマナー。
「歩くことが自然を守る行為につながる」――そんな気持ちを持って、安全で心地よいトレイル時間を。
初めてでも大丈夫?あまとみトレイルはこんな人におすすめ
ロングトレイルに憧れがある“ライト層”にちょうどいい

あまとみトレイルは、全長86kmというと少しハードルが高く感じるかもしれませんが、
実は初めてのロングトレイル体験にもぴったりの道です。
民宿や宿泊施設が多く、テント泊が前提ではない
区間を細かく分けて歩ける、セクションハイク向きの地形
信越トレイルほどの「山深さ」や「物資の乏しさ」はない
登山やハイキングを月に1〜2回楽しむような方であれば、
日帰りで一部を歩いてみるだけでも十分にこの道の魅力を味わえます。
「一度、ちゃんとした“歩く旅”をしてみたい」
そんな想いを持っている人にこそ、最初の一歩としておすすめしたいルートです。
景色だけじゃない、“物語”を歩きたい人へ

あまとみトレイルが他のトレイルと大きく違うのは、
そこに「物語」が流れていること。
善光寺から戸隠へ向かう信仰の道
黒姫山麓の集落と地元の営み
妙高・笹ヶ峰に広がる火山と高原の風景
そして斑尾山から日本海へと続こうとする未来のルート
ただの絶景だけでなく、歩いているうちに「なぜこの道なのか」がじわじわ伝わってきます。
景色を“見る旅”から、風景の中に“入っていく旅”へ。
そんな感覚を味わいたい人にとって、あまとみトレイルは最高のフィールドです。
よくある質問(FAQ)
Q. スルーハイクは初心者でもできますか?
体力に不安がある方でも、計画次第で十分チャレンジ可能です。宿泊施設を利用すれば荷物も軽くできますし、1日20km前後を目安に無理のないペースで進めば、4〜5日で踏破できます。無理せず区切りながら歩く“セクションハイク”から始めるのもおすすめです。
Q. MAPBOOKって絶対に必要ですか?
はい、公式MAPBOOKは実質“必携”です。道標だけでは不十分な区間も多く、水場の位置や標高データ、緊急時のエスケープルートまで記載されています。スマホのGPSと併用すれば、現在地確認もスムーズに。¥1,650で得られる安心感は非常に大きいです。
Q. クマ対策はどの程度必要ですか?
特に戸隠〜黒姫〜妙高エリアではツキノワグマの生息が確認されています。クマ鈴やラジオなどで音を出しながら歩くことが基本で、単独行の場合は特に意識を。出会わない行動が第一ですが、不安な方は携帯スプレーを装備しても良いでしょう。
Q. 水や食料の補給はどうすればいい?
水場は比較的多いですが、夏は枯れることもあります。常に2L程度は持ち歩き、沢の水を飲む場合は必ず煮沸や浄水器を使用してください。観光地周辺では自販機もありますが、山間部では見かけないので、事前に補給ポイントを地図で確認しておくことが重要です。
Q. テントを張れるような場所はありますか?
あまとみトレイルの大部分は、妙高戸隠連山国立公園の区域内に位置しています。そのため、自然環境保全や植生保護の観点から、原則として自由なテント泊(野営)は認められていません。
ただし、例外として一部の指定地(たとえば「笹ヶ峰キャンプ場」など)では、事前の許可や予約によりテント泊が可能な場合があります。
テント泊を計画する際は、あらかじめ公式サイトや管理施設の情報を確認し、ルールに則った利用を心がけましょう。
トレイル全体を通じて、地域住民や保護団体の協力で整備されているルートです。次の利用者や自然環境への影響を最小限に抑えることが、ロングトレイル文化を支える第一歩です。
まとめ|道がつないでくれるものを、あまとみで見つけよう
あまとみトレイルは、ただの“ハイキングコース”ではありません。
信仰と暮らしの歴史、自然の豊かさ、そして地域の人々の想いがつまった道を、自分の足でたどる――そんな「歩く旅」です。
ロングトレイルという言葉に少し憧れを抱いていた人も、まずは1区間から。
MAPBOOKと少しの準備があれば、このトレイルはきっと“自分の道”になります。
トレイルの途中で出会う風景も、空気も、言葉も、きっと記憶に残るものになるはずです。
まずは一歩、地図をひらいて計画してみてください。