混雑を避けて楽しむ紅葉登山のすすめ
関東の紅葉シーズンといえば、高尾山や日光の華厳の滝、箱根の芦ノ湖など、多くの人が思い浮かべる名所があります。しかし、これらの人気スポットは美しい反面、シーズン中は多くの観光客で賑わい、静寂な山の魅力を十分に味わうことが難しい場合もあります。
11月中旬から12月上旬にかけての晩秋は、関東地方の中低標高の山々が最も美しく色づく季節です。この時期に、人混みを避けて静かな山歩きを楽しめる穴場のトレッキングスポットを知っていると、より充実した紅葉体験ができるでしょう。
朝靄に包まれた山道を一人歩いていると、足元に散り敷かれた色とりどりの落ち葉と、頭上に広がる紅葉のトンネルが、都市の喧騒を忘れさせてくれる特別な時間を演出してくれます。今回ご紹介する5つの山は、いずれも関東各県にある標高1000m以下の親しみやすい山々で、中級レベルのハイカーであれば日帰りで楽しめるコースとなっています。
安全な登山のために
晩秋の山では気温変化が大きく、特に早朝や夕方は冷え込みます。防寒着の準備と、日没前の下山を心がけましょう。また、落ち葉で足元が滑りやすくなっているため、滑り止めの効いた登山靴の着用をお勧めします。
棒ノ折山(埼玉県)|渓谷と岩場が彩る紅葉ルート

出典:TRAIN & TRAIL
コース情報と見どころ
棒ノ折山(標高969m)は、奥多摩と奥武蔵の境に位置する山で、特に白谷沢ルートは関東でも指折りの美しい渓谷トレッキングが楽しめます。11月中旬から下旬にかけて、モミジやカエデが鮮やかに色づき、清流との対比が見事な景観を作り出します。
代表的なコースは、さわらびの湯を起点とした白谷沢ルートです。コースタイム約4時間30分、距離約7km、標高差約600mの中級コースとなります。前半は沢沿いの穏やかな道のりですが、中盤のゴルジュ帯では岩場の通過もあり、変化に富んだルートが楽しめます。
特に印象的なのは、白谷沢の上流部に現れるゴルジュ帯です。両岸の岩壁に挟まれた狭い谷間を流れる清流と、頭上を覆う紅葉のコントラストは格別です。山頂からは奥多摩の山々や関東平野の展望が開け、晴れた日には都心のビル群まで望むことができます。
装備チェックリスト
- グリップの効いた登山靴(沢沿いで滑りやすいため)
- 防水性のある手袋(岩場での安全確保)
- レインウェア(天候急変に備えて)
- ヘッドランプ(日没が早いため)
紅葉シーズンのアクセスと注意点
アクセスは、西武池袋線の飯能駅から、西武バス(国際興業バス)「名郷」行きに乗車し、終点で下車します。名郷バス停からさわらびの湯まで徒歩約15分です。紅葉シーズンの土日祝日は、朝の便が混雑する可能性があるため、早めの時間帯での出発をお勧めします。
11月の棒ノ折山は朝晩の気温が5度前後まで下がることがあります。特に沢沿いのルートは湿度が高く、体感温度が下がりやすいため、重ね着での温度調節が重要です。また、紅葉の最盛期は足元に落ち葉が厚く積もり、岩場では特に滑りやすくなります。
下山後は、さわらびの湯で温泉に浸かりながら疲れを癒すことができます。内湯からは奥多摩の山々を眺めることができ、登山の余韻に浸れる贅沢な時間を過ごせるでしょう。
宝篋山(茨城県)|筑波山を望む隠れ紅葉名所

出典:ひまじん
コース情報と見どころ
宝篋山(標高461m)は、筑波山の南東に位置する茨城県の里山です。標高は低めですが、山頂からの360度の大パノラマは関東随一といっても過言ではありません。11月下旬から12月上旬にかけて、コナラやクヌギなどの広葉樹が黄金色に輝き、筑波山を背景とした絶景を楽しむことができます。
最もポピュラーなのは、小田休憩所を起点とした表登山道コースです。コースタイム約3時間、距離約4.5km、標高差約400mと、比較的アクセスしやすいルートとなっています。登山道は整備されており、家族連れでも安心して歩けるコースです。
山頂の展望台からの眺めは圧巻で、東には霞ヶ浦、南には牛久大仏、西には富士山、そして北には筑波山という、関東平野を一望できる贅沢な景色が広がります。特に夕方の時間帯は、夕日に照らされた紅葉と関東平野の街明かりが幻想的な雰囲気を演出します。
紅葉シーズンのアクセスと注意点
アクセスは、つくばエクスプレスのつくば駅から関東鉄道バス「下大島」行きに乗車し、「小田」バス停で下車します。バス停から小田休憩所までは徒歩約10分です。つくば駅周辺には多くの駐車場もあるため、車でのアクセスも便利です。
宝篋山の紅葉は11月下旬が見頃となります。この時期の気温は日中で15度前後、朝晩は5度程度まで下がることがあります。標高が低いため防寒対策はそれほど必要ありませんが、風が強い日は体感温度が下がるため、ウインドブレーカーの携行をお勧めします。
おすすめの楽しみ方
山頂での日の出や夕日鑑賞も魅力的です。ただし、日没時刻を確認し、安全に下山できる時間配分を心がけましょう。また、筑波山との縦走も可能ですが、距離が長くなるため十分な準備が必要です。
大福山(千葉県)|房総の里山を染める静かな紅葉道

出典:CROW'SCLAW
コース情報と見どころ
大福山(標高292m)は、千葉県市原市にある房総丘陵の一角で、「関東で最も遅い紅葉」として知られる穴場スポットです。12月上旬から中旬にかけて見頃を迎えるため、他の山々の紅葉が終わった後でも美しい紅葉を楽しむことができます。
養老渓谷駅を起点とした梅ヶ瀬渓谷経由のコースが一般的で、コースタイム約3時間30分、距離約6km、標高差約250mの比較的歩きやすいルートです。前半は渓谷沿いの平坦な道を歩き、後半で大福山展望台へと登っていきます。
このコースの魅力は、渓谷美と山頂からの展望の両方を楽しめることです。梅ヶ瀬渓谷では、清流に映る紅葉の美しさに心を奪われます。山頂付近には白鳥神社が鎮座し、紅葉に囲まれた静かな雰囲気が漂います。特に朝霧に包まれた房総の山並みは、幻想的な光景を見せてくれます。
展望台の注意事項
大福山展望台は老朽化により現在立入禁止となっています。山頂付近からも充分な眺望を楽しめますが、展望台への立ち入りはお控えください。
紅葉シーズンのアクセスと注意点
アクセスは、JR内房線の五井駅から小湊鉄道に乗り換え、養老渓谷駅で下車します。駅から梅ヶ瀬渓谷入口までは徒歩約20分です。小湊鉄道は房総の里山風景を楽しめるローカル線として人気があり、電車での移動自体も旅の魅力の一部となります。
大福山の紅葉は12月に入ってからが本格的な見頃となります。この時期の気温は日中で12度前後、朝晩は2-3度まで下がることもあります。標高は低いものの、房総の山は海からの風が強いことがあるため、防風対策は重要です。
鐘ヶ嶽(神奈川県)|アクセス良好な裏丹沢の紅葉トレッキング
出典:厚木市観光協会
コース情報と見どころ
鐘ヶ嶽(標高561m)は、神奈川県厚木市にある裏丹沢の入門的な山として親しまれています。表丹沢ほど知名度は高くありませんが、11月中旬から下旬にかけての紅葉は見事で、静かな山歩きを楽しむことができます。
広沢寺温泉入口を起点としたコースが最も一般的で、コースタイム約3時間、距離約5km、標高差約400mとなっています。登山道は比較的よく整備されており、急な岩場もないため、中級者であれば安心して歩けるコースです。
山頂付近からは相模湾や江の島、晴れた日には富士山も望むことができます。また、下山後は広沢寺温泉で汗を流すことができ、登山とセットで楽しめるのも魅力の一つです。紅葉シーズンには、温泉からも色づいた山々を眺めることができます。
紅葉シーズンのアクセスと注意点
アクセスは、小田急線本厚木駅から神奈川中央交通バス「広沢寺温泉」行きに乗車し、終点で下車します。バス停から登山口まで徒歩約5分と、公共交通機関でのアクセスが良好です。紅葉シーズンの休日は温泉利用者も多いため、早めの時間帯でのスタートをお勧めします。
鐘ヶ嶽の紅葉は11月中旬から下旬が見頃です。この時期の山頂付近の気温は日中で10度前後、朝晩は5度程度まで下がります。風が強い日は体感温度がさらに下がるため、防寒具の準備は必要です。また、落ち葉で足元が滑りやすくなっているため、靴底のグリップには注意が必要です。
温泉とセットで楽しむ準備
- タオルと着替え(温泉利用の場合)
- 入浴料金(大人600円程度)
- 温泉営業時間の事前確認
- 下山時刻の計画(温泉利用時間を含めて)
高崎・観音山(群馬県)|展望台から望む街紅葉と山景色

出典:日本マウント
コース情報と見どころ
高崎市の観音山(標高約190m)は、市街地に近い低山ながら、白衣大観音や徳明園などの見どころが点在する魅力的なトレッキングスポットです。11月中旬から12月上旬にかけて、モミジやイチョウが美しく色づき、街中とは思えない豊かな自然を楽しむことができます。
JR高崎駅からバスでアクセスできる手軽さも魅力で、白衣大観音を起点とした散策コースなら、コースタイム約2時間、距離約3kmと気軽に楽しめます。徳明園を含めた本格的なトレッキングなら、コースタイム約4時間、距離約6kmとなります。
白衣大観音(高さ41.8m)の展望台からは、高崎市街地や上毛三山(赤城山、榛名山、妙義山)を一望できます。特に夕方の時間帯は、街の灯りと山々のシルエットが美しいコントラストを描きます。徳明園では、人工的に作られた日本庭園の紅葉も楽しむことができ、自然の山と人工の美が調和した独特の景観を味わえます。
紅葉シーズンのアクセスと注意点
アクセスは、JR高崎駅西口から群馬バス「観音山頂」行きに乗車し、終点で下車します。バス停から白衣大観音までは徒歩約3分と、非常に便利です。車の場合は、観音山ファミリーパークの駐車場を利用できます。
観音山の紅葉は11月中旬から12月上旬が見頃となります。標高が低いため、他の山に比べて温暖ですが、11月後半から12月にかけては朝晩の冷え込みが厳しくなります。特に早朝や夕方の散策では、防寒対策が重要です。
観光施設との組み合わせ
観音山周辺には、洞窟観音や群馬県立近代美術館などの文化施設もあります。紅葉トレッキングと合わせて、群馬の文化に触れる一日を過ごすのもおすすめです。ただし、各施設の開館時間や休館日を事前に確認しておきましょう。
まとめ|静かな秋を歩く贅沢を楽しもう
今回ご紹介した5つの山は、いずれも関東の穴場的な紅葉スポットとして、混雑を避けながら美しい紅葉を楽しむことができる場所です。標高1000m以下の親しみやすい山々でありながら、それぞれに個性的な魅力があり、四季を通じて愛され続けている理由がよく分かります。
棒ノ折山の渓谷美、宝篋山の大展望、大福山の遅い紅葉、鐘ヶ嶽の温泉とのセット、観音山の文化的な魅力など、単に山を歩くだけでなく、それぞれの土地ならではの楽しみ方があることも、これらの山の大きな特徴です。
晩秋の山では、気温の変化や日没時刻の早さなど、安全面での注意が特に重要になります。事前の天気予報チェック、適切な装備の準備、余裕のある時間計画を心がけ、安全第一で山歩きを楽しみましょう。
最後に
自然保護の観点から、登山道から外れることなく、ゴミの持ち帰りを徹底し、植物の採取は控えるなど、マナーを守った山歩きを心がけましょう。美しい紅葉を末永く楽しむために、一人ひとりの心がけが大切です。
よくある質問
- Q1: 紅葉登山初心者でも安全に楽しめるのはどの山ですか?
- 高崎・観音山または宝篋山がおすすめです。どちらも標高が低く、登山道が整備されており、アクセスも良好です。特に観音山は市街地に近く、万が一のときのエスケープルートも豊富で、初心者の方には最適です。
- Q2: 11月下旬の服装はどのようなものが適切でしょうか?
- 基本的には重ね着での温度調節が重要です。ベースレイヤー(吸汗速乾性のあるシャツ)、中間着(フリースやウール素材)、アウター(防風・防水性のあるジャケット)の3層構造がおすすめです。また、手袋と帽子は必須アイテムです。標高の高い棒ノ折山では特に防寒対策を万全にしてください。
- Q3: 平日と休日、どちらが混雑を避けられますか?
- 当然ながら平日の方が混雑は少なくなります。特に火曜日から木曜日は比較的静かな山歩きを楽しめるでしょう。休日に訪れる場合は、早朝スタート(7時台)をおすすめします。また、紅葉の見頃を少し外した時期(12月初旬など)も混雑回避に有効です。
- Q4: 日帰りで複数の山を回ることは可能でしょうか?
- 地理的な位置を考慮すると、宝篋山と筑波山の組み合わせは可能ですが、他の山は距離が離れているため現実的ではありません。むしろ一つの山をじっくりと歩き、下山後に温泉や観光地を楽しむプランをおすすめします。特に鐘ヶ嶽と広沢寺温泉、観音山と高崎市内観光などの組み合わせが効率的です。
- Q5: 雨天時の代替プランはありますか?
- 安全を最優先に考え、雨天時の山行は中止することをおすすめします。代替案として、高崎の徳明園や洞窟観音など屋内施設のある観光地、または養老渓谷の温泉街散策など、悪天候でも楽しめるスポットを事前に調べておくと良いでしょう。