はじめに|本格ザック選びで失敗しないために
初めて本格的な登山用ザックを購入しようと思ったとき、多くの人が候補に挙げるのがミレー(MILLET)、カリマー(karrimor)、グレゴリー(GREGORY)の3大ブランドです。どれも世界的な名門ブランドですが、「どう違うの?」「自分に合うのはどれ?」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
実は、この3ブランドはそれぞれ創業の背景や開発思想が大きく異なります。ミレーはフランス・アルプスで培われた撥水性と快適性、カリマーはイギリス生まれの実用主義と背面調整機能、グレゴリーはアメリカ発の革新的フィット感を武器に、世界中の登山家から支持されてきました。
この記事では、各ブランドの歴史・テクノロジー・フィット感・価格帯を徹底比較し、さらに30L前後の日帰り〜小屋泊向けモデル3選と50L以上のテント泊・縦走向けモデル3選を紹介します。あなたの登山スタイルや体型、予算に最適なザックが見つかるはずです。
3大ザックブランドの歴史と特徴を知る
まずは、各ブランドの生い立ちと開発思想を理解しましょう。ブランドの歴史を知ることで、製品の特徴がより深く理解できます。
ミレー|1921年創業、フランスが誇るアルパインの名門
ミレー(MILLET)は、1921年にフランス・リヨン近郊で創業した100年以上の歴史を持つアルパインブランドです。創業者のマルク・ミレー夫妻が手掛けたキャンバスバッグから始まり、1934年にフレーム付きバックパックの開発に着手し、アルピニズム用フレームザックの原型を開発。1950年には、人類初の8,000m峰アンナプルナ登頂を成し遂げたフランス隊が、ミレーのバックパックを使用したことで一躍世界的な名声を獲得しました。
ミレーの最大の特徴は、ヨーロッパアルプスの厳しい環境で培われた撥水性と耐久性です。雨が多く湿度の高い山域での使用を前提に設計されており、日本の山岳環境にも非常にマッチします。背面構造も汗を逃がしやすく、長時間の行動でも快適性を保てる工夫が随所に施されています。
カリマー|1946年創業、イギリス生まれの実用主義
カリマー(karrimor)は、1946年にイギリス・ランカシャーでサイクルバッグメーカーとして創業しました。ブランド名の由来は「carry more(もっと運べる)」。その名の通り、荷物を効率的に、快適に運ぶことを追求してきたブランドです。
カリマーの代名詞といえば、1983年に世界初として発表された「SAシステム(サイズアジャストシステム)」です。これは、ザックを背負ったまま背面長を調整できる画期的な機構で、体格が異なるユーザーでも最適なフィット感を得られます。実用性と機能性を重視するイギリスらしい開発思想が製品に表れています。
グレゴリー|1977年創業、アメリカ発「背負い心地の革命児」
グレゴリー(GREGORY)は、1977年にアメリカ・カリフォルニア州サンディエゴで創業者ウェイン・グレゴリーによって設立されました。わずか40年余りの歴史ですが、「バックパックのロールス・ロイス」と称されるほど、背負い心地に対する評価は絶大です。
グレゴリーの革新は、1980年頃に確立した、個々の体型に合わせるフィッティングの哲学と体の動きに追従するアクティブ・サスペンションにあります。それまでの「パックを背中に合わせる」という発想を覆し、「背中がパックを背負う」という哲学のもと、体の動きに追従する「フリーフロート・サスペンション」を開発。この技術により、長時間の山行でも疲れにくい背負い心地を実現しています。
各ブランドの独自テクノロジー比較
出典:YAMAP STORE
3ブランドはそれぞれ独自のテクノロジーを開発し、快適性と機能性を追求してきました。ここでは各ブランドの代表的な技術を比較します。
ミレー:撥水性と背面通気性を追求
ミレーの最大の強みは優れた撥水性能です。特に人気モデル「サースフェー」シリーズは、シリコン加工を施したCORDURA®ナイロン素材を採用し、耐水圧1,500mm以上を実現。日本のような湿度の高い山域でも、雨に強く荷物を守ります。
また、背面には通気性に優れた3D構造のバックパネルを採用。背中との接触面積を最小限に抑えながらも荷重を分散し、汗によるベタつきを軽減します。フランス・アルプスで培われた「雨を弾き、汗を逃がす」思想が製品全体に息づいています。
カリマー:無段階背面調整「SAシステム」
カリマー独自の「SAシステム(サイズアジャストシステム)」は、背負ったまま背面長を調整できる画期的な機構です。通常、ザックは購入時に背面長を合わせる必要がありますが、SAシステムなら背負ったまま(立ち止まった状態で)ミリ単位で微調整が可能。体格の変化や荷物の重さに応じて、常に最適なフィット感を保てます。
また、カリマーのザックは3Dバックパネルとヒップベルトの一体設計により、荷重を効果的に腰に分散。長時間の山行でも肩への負担を軽減します。実用性を重視するイギリスらしい、機能的なアプローチが特徴です。
グレゴリー:体に追従する「フリーフロート・サスペンション」
グレゴリーの代名詞が「フリーフロート・サスペンション」です。これは、ヒップベルト・ショルダーハーネス・バックパネル下部が体の動きに合わせて柔軟に追従する構造。従来の固定式サスペンションとは異なり、歩行時の体の揺れやひねりにザックが自然にフィットし、不快な圧迫感や擦れを大幅に軽減します。
さらに、背面にはトランポリン構造のメッシュパネルを採用。背中とザックの間に空間が生まれ、空気が自由に流れることで優れた通気性を確保。暑い季節の登山でも背中が蒸れにくく、快適性を保ちます。
フィット感と背負い心地の違い
各ブランドの背負い心地には明確な違いがあります。ミレーは日本人の体型にマッチしやすいコンパクトな設計が特徴で、女性や小柄な方でもフィットしやすい傾向があります。撥水性の高い素材と通気性の良い背面構造により、湿度の高い日本の山で快適に使えます。
カリマーは無段階調整できるSAシステムにより、幅広い体格に対応。特に荷物の重さが変化する長期縦走では、その都度最適なフィット感に調整できるメリットがあります。ヒップベルトのクッション性も高く、重い荷物を背負っても腰への負担が少ないのが特徴です。
グレゴリーは「背負った瞬間に体にフィットする」と評される抜群のフィット感が魅力。フリーフロート・サスペンションにより、岩場や急斜面でも体の動きを妨げません。ただし、欧米人の体型を基準に設計されているため、日本人の場合は試着してサイズを確認することが重要です。
価格帯とコストパフォーマンス比較
| ブランド | 30L前後モデル | 50L以上モデル | コスパ評価 |
|---|---|---|---|
| ミレー | 約28,000円〜 | 約40,000円〜 | 撥水性と耐久性を考慮すれば高コスパ |
| カリマー | 約31,000円〜 | 約35,000円〜 | SAシステム搭載で調整幅が広く長く使える |
| グレゴリー | 約29,000円〜 | 約50,000円〜 | 背負い心地を最優先するなら納得の価格 |
価格帯としては3ブランドとも同等レベルで、30L前後のモデルが28,000〜32,000円前後、50L以上の大型モデルが35,000〜60,000円前後となっています(※2025年10月時点)。
コストパフォーマンスの観点では、ミレーは撥水性と耐久性、カリマーは調整機能の豊富さ、グレゴリーは背負い心地の良さがそれぞれの強みです。登山スタイルや重視するポイントによって、どのブランドが「コスパが良い」と感じるかは変わってくるでしょう。
※価格は変動する可能性があります。購入前に公式サイトや正規販売店でご確認ください。
【30L前後】日帰り〜小屋泊向け定番モデル3選
ここからは、各ブランドの定番モデルを具体的に紹介します。まずは日帰り登山から山小屋1泊程度に最適な30L前後のモデルから見ていきましょう。
ミレー サースフェー NX 30+5|撥水性と快適性のバランス
出典:ミレー公式サイト
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ミレー サースフェー NX 30+5(MIS0756)は、ミレーを代表するロングセラーモデルです。容量30+5L、重量約1,500gで、日帰り登山から山小屋1泊までカバーします。
最大の特徴は耐水圧1,500mm以上の撥水性能を持つシリコン加工CORDURA®ナイロン素材。突然の雨にも強く、荷物をしっかり守ります。背面には立体構造の3Dバックパネルを採用し、汗によるベタつきを軽減。背面長はM(48cm)とL(51cm)の2サイズから選べるため、日本人の体型にもフィットしやすい設計です。
価格は約28,050円(税込)(※2025年10月時点)。レインカバーも付属しており、初めての本格ザックとして「撥水性」「快適性」「コスパ」のバランスが取れた一品です。
※製品仕様は予告なく変更される場合があります。購入前に公式サイトでご確認ください。
カリマー リッジ 30+|豊富な機能と高い汎用性
出典:カリマー公式サイト
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カリマー リッジ 30+(501206)は、2025年にリニューアルされた最新モデル。容量30+L、重量1,360g(S)〜1,460g(L)と軽量ながら、豊富な機能を備えています。
最大の特徴は3Dバックパネルと立体構造のヒップベルトによる優れたフィット感。背面長はS・M・Lの3サイズ展開で、幅広い体格に対応します。フロントポケット、サイドポケット、ヒップベルトポケットなど収納も充実し、行動中に必要なものをすぐ取り出せる利便性の高さが魅力です。
価格は31,900円(税込)(※2025年10月時点)。レインカバー付属。カリマーの定番モデルとして長年愛されてきた「リッジ」シリーズの最新版で、初心者から経験者まで幅広く支持されています。
※製品仕様は予告なく変更される場合があります。購入前に公式サイトでご確認ください。
グレゴリー ズール30|通気性抜群のフリーフロート構造
出典:好日山荘オンライン
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グレゴリー ズール30(145291/145664)は、グレゴリーのハイカーモデルを代表する人気ザック。容量28L(SM/MD)〜30L(MD/LG)、重量1,380g〜1,420gと軽量で、日帰り〜小屋泊に最適です。
最大の特徴はフリーフロート・ダイナミック・サスペンション。ヒップベルトが体の動きに合わせて旋回し、岩場や急斜面でも快適な背負い心地を保ちます。背面にはトランポリン構造のメッシュパネルを採用し、空気の流れを確保。夏場の登山でも背中が蒸れにくく、快適性が持続します。
価格は約29,700円(税込)(※2025年10月時点)。レインカバー付属。サイズは背面長に応じてSM/MDとMD/LGの2展開。グレゴリーならではの「背負った瞬間に体に馴染むフィット感」を体感できる一品です。
※製品仕様は予告なく変更される場合があります。購入前に公式サイトでご確認ください。
【50L以上】テント泊・縦走向け大型モデル3選
続いて、テント泊や2泊以上の縦走に対応できる50L以上の大型モデルを見ていきましょう。
ミレー サースフェー NX 60+|定番シリーズの大容量版
出典:ミレー公式サイト
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ミレー サースフェー NX 60+(MIS0771)は、定番「サースフェー」シリーズの大容量版。容量60+Lで、テント泊や長期縦走に対応します。
30+5モデルと同じく耐水圧1,500mm以上の撥水性能を持つCORDURA®ナイロン素材を採用し、雨に強い設計。大容量ながら無駄なく荷物を詰め込めるフォールディングポケットや、素早くアクセスできる小型チェストポケットなど、使い勝手も考慮されています。
価格は約40,000円前後(※販売店により変動)(※2025年10月時点)。レインカバー付属。ミレーならではの「撥水性」と「快適な背負い心地」を大容量モデルでも体感できます。
※製品仕様は予告なく変更される場合があります。購入前に公式サイトでご確認ください。
カリマー クーガー 55-75|長期縦走向け可変容量モデル
出典:好日山荘オンライン
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カリマー クーガー 55-75(500809)は、テント泊や長期縦走向けに開発された大容量モデル。容量55〜75Lの可変式で、荷物の量に応じて調整できます。
最大の特徴は無段階で背面調整できるSAシステムを搭載している点。大型ザックでありながら、背負ったまま(立ち止まった状態で)自分の体格に合わせてフィット感を微調整でき、長期山行でも快適性を保てます。重量約2,740gとやや重めですが、豊富なポケットと高い耐久性を備え、長く使えるモデルです。
価格は約35,000円前後(※販売店により変動)(※2025年10月時点)。レインカバー付属。カリマーの縦走向けフラッグシップモデルとして、高い信頼性を誇ります。
※製品仕様は予告なく変更される場合があります。購入前に公式サイトまたは正規販売店でご確認ください。
グレゴリー バルトロ65|最高峰の背負い心地を求めるなら
出典:Amazon
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グレゴリー バルトロ65(142440/142439/142441)は、グレゴリーのバックパッキングモデルの最高峰。容量65Lで、長期縦走やテント泊に対応します。
最大の特徴はフリー・フロート A3ダイナミックサスペンション。ヒップベルト・ショルダーハーネス・バックパネルが体に合わせて柔軟にフィットし、重い荷物を背負っても疲れにくい設計です。大型ながら重量は約2,200g前後(サイズにより変動)で、グレゴリーならではの「最高の背負い心地」を大容量モデルで実現しています。
価格は約57,200円(税込)(※2025年10月時点)。サイズはS・M・Lの3展開。価格は高めですが、「背負い心地に妥協したくない」という本格派登山者から絶大な支持を受けています。
※製品仕様は予告なく変更される場合があります。購入前に公式サイトでご確認ください。
こんな人にはこのブランドがおすすめ
最後に、各ブランドを選ぶべき人の特徴をまとめます。
【ミレーがおすすめな人】
- 雨の多い日本の山で使いたい(撥水性重視)
- 背中の蒸れを軽減したい(通気性重視)
- 日本人の体型に合ったザックを探している
- フランス・アルパインブランドの伝統を感じたい
【カリマーがおすすめな人】
- 背面長を細かく調整したい(SAシステム)
- 豊富なポケットで荷物を整理したい
- 長期縦走で荷物の重さが変化する
- イギリス生まれの実用的なデザインが好き
【グレゴリーがおすすめな人】
- 背負い心地を最優先したい
- 長時間の山行でも疲れにくいザックが欲しい
- 岩場や急斜面で体の動きを妨げないモデルを探している
- 「バックパックのロールス・ロイス」を体感したい
失敗しないザック選び|5つのチェックポイント
最後に、ザック選びで失敗しないための重要なポイントを紹介します。
1. 必ず試着して背面長を確認する
ザックの背面長が体に合っていないと、どれだけ高機能なモデルでも快適に背負えません。店頭で実際に背負い、腰ベルトが骨盤にしっかり乗るかを確認しましょう。
2. 実際の荷物を入れて試す
空のザックと荷物を入れたザックでは、背負い心地が全く変わります。可能であれば5〜10kg程度の荷物を入れて試着し、フィット感を確かめましょう。
3. 容量は「使用目的+5L」を選ぶ
容量は「ちょうど」ではなく、少し余裕を持ったサイズを選ぶのがコツ。日帰りなら25〜30L、1泊なら30〜40L、テント泊なら50〜65Lが目安です。
4. レインカバーの有無を確認
ザックを雨から守るレインカバーは必須アイテム。付属しているモデルなら追加購入の手間とコストが省けます。
5. 長く使うことを前提に選ぶ
ザックは消耗品ではなく、長く付き合うパートナー。数千円の差よりも、自分に合ったモデルを選ぶことが重要です。信頼できるブランドから選びましょう。
よくある質問(FAQ)
ミレー、カリマー、グレゴリーで一番背負いやすいのはどれ?
「背負いやすさ」は体型や好みによって異なりますが、一般的にはグレゴリーの「フリーフロート・サスペンション」が最も高く評価されています。ただし、日本人の体型にはミレーの方がフィットしやすいという声もあります。必ず試着して自分に合うブランドを選びましょう。
初心者にはどのブランドがおすすめ?
初心者にはミレー サースフェー NX 30+5がおすすめです。撥水性が高く、日本の山に適しており、価格も比較的手頃。ビギナーにも使いやすい機能が揃っています。また、カリマー リッジ 30+も豊富な機能と高い汎用性で初心者に支持されています。
女性向けモデルはある?
3ブランドとも女性向けモデル(ウィメンズモデル)を展開しています。ミレーは「サースフェー NX 30+5 W(MIS0757)」、グレゴリーは「ジェイド」シリーズが女性専用設計。ショルダーハーネスやヒップベルトが女性の体型に合わせて調整されています。
30Lと50Lどちらを買うべき?
日帰り登山がメインなら30L前後、テント泊や2泊以上の縦走を考えているなら50L以上を選びましょう。迷ったら、将来的な使い方を想定して大きめのサイズを選ぶのも一つの方法です。ただし、大きすぎるザックは荷物を詰め込みすぎて重くなる傾向があるため注意が必要です。
価格が高いほうが性能は良い?
必ずしも価格が高い=性能が良いとは限りません。重要なのは自分の登山スタイルと体型に合っているかです。例えば、日帰り登山がメインなら30L前後のモデルで十分ですし、背面長が合わないザックは高価でも快適に使えません。自分のニーズに合ったモデルを選ぶことが最優先です。
ザックの寿命はどれくらい?
使用頻度や手入れ次第ですが、適切にメンテナンスすれば10年以上使えます。3ブランドとも耐久性の高い素材を使用しており、長く愛用できるのが特徴です。使用後は汚れを落とし、直射日光を避けて保管することで寿命を延ばせます。