10月から11月にかけて、紅葉が美しい秋の登山シーズンが本格化します。しかし、秋の山は朝晩の冷え込みと日中の暖かさの寒暖差が大きく、服装選びで失敗すると快適さや安全性が大きく損なわれる可能性があります。本記事では、秋トレッキングに最適な服装の考え方と、気温・標高ごとの具体的なコーディネート例を紹介します。
秋トレッキングの服装で失敗しやすいポイント

出典:Fresh Off The Grid
秋の山で服装の失敗が起こりやすいのは、以下のような理由からです。
- 寒暖差への対応不足:朝は5℃でも昼間は15℃を超えることがあり、重ね着の調整ができないと暑すぎたり寒すぎたりします。
- 汗冷えのリスク:登りで汗をかいたまま休憩や下山すると、急激に体温が奪われます。
- 綿素材の着用:コットン製のTシャツやパーカーは吸汗後に乾きにくく、体温低下の原因になります。
- 防寒着の不足:標高が上がるごとに気温は低下するため、予備の防寒着を持たないと危険です。
こうした失敗を防ぐには、レイヤリング(重ね着)の考え方を理解し、気温や行動に応じて脱ぎ着できる服装構成を準備することが不可欠です。
レイヤリングの基本|3層構造を理解しよう

出典:Outdoor Gear Lab
登山やトレッキングにおける服装は、ベースレイヤー・ミドルレイヤー・アウターレイヤーの3層構造で考えるのが基本です。
レイヤー名 | 役割 | 代表的なアイテム |
---|---|---|
ベースレイヤー | 肌に直接触れ、汗を素早く吸収・拡散させる | 化繊またはメリノウール製のTシャツ・長袖シャツ |
ミドルレイヤー | 保温性を確保し、体温を維持する | フリース・薄手ダウン・ソフトシェル |
アウターレイヤー | 風雨から体を守り、体温低下を防ぐ | レインウェア・ウィンドブレーカー・ハードシェル |
それぞれの層を状況に応じて脱いだり着たりすることで、体温調整と快適性のバランスを保つことができます。特に秋は気温変化が激しいため、各レイヤーを柔軟に組み合わせることが重要です。
注意:レイヤリングの効果を最大限に発揮するには、各層が適切な素材で作られていることが前提です。素材選びについては後述します。
気温・標高別のおすすめコーデ例

出典:The Wandering Queen
秋のトレッキングでは、気温と標高によって適した服装が大きく変わります。ここでは代表的な3つの気温帯ごとに、実践的なコーディネート例を紹介します。
15℃前後(低山・日帰りハイク)
標高500m前後の低山や丘陵地帯での日帰りハイクを想定した服装例です。日中は15℃以上になることも多く、汗をかきやすい環境です。
レイヤー | アイテム例 |
---|---|
ベース | 化繊またはメリノウール製の半袖または長袖Tシャツ |
ミドル | 薄手フリースまたはソフトシェル(ザックに携行) |
アウター | 薄手レインウェアまたはウィンドブレーカー(ザックに携行) |
ボトムス | ストレッチ性のあるトレッキングパンツ |
この気温帯では行動中はベースレイヤー1枚で歩き、休憩時や稜線など風が強い場所でミドルレイヤーを羽織るスタイルが基本です。予備の防寒着として薄手フリースを必ず持参しましょう。
10℃前後(中標高・紅葉ピーク期)
標高800〜1,200m前後の中標高域で、紅葉が最も美しい時期のコーディネート例です。朝晩は冷え込み、日中も風が吹くと体感温度が下がります。
レイヤー | アイテム例 |
---|---|
ベース | メリノウール製の長袖Tシャツまたは中厚手シャツ |
ミドル | 中厚手フリースまたは薄手インサレーションジャケット |
アウター | レインウェア上下セット |
小物 | 薄手グローブ、ニット帽、ネックウォーマー |
この気温帯ではメリノウールのベースレイヤーと中厚手のミドルレイヤーが快適性のカギとなります。小物類も忘れずに準備し、特に手足の末端の保温に注意しましょう。
5℃前後(晩秋・高原トレッキング)
標高1,200m以上の高原や11月の晩秋期を想定した服装例です。本格的な防寒対策が必要で、低体温症のリスクも考慮する必要があります。
レイヤー | アイテム例 |
---|---|
ベース | 厚手メリノウール製の長袖シャツ |
ミドル | ダウンジャケットまたは厚手フリース |
アウター | 防風・防水性の高いハードシェル上下 |
小物 | 厚手グローブ、ウール帽、バラクラバ、防寒インナーグローブ |
警告:この気温域では低体温症のリスクが高まります。予備の防寒着を必ず持参し、体調不良を感じたら無理をせず下山することが重要です。
素材選びのコツ|コットンNG・ウール・化繊の使い分け

出典:GearJunkie
トレッキングウェアの快適性は、デザインや厚さ以上に素材選びが重要です。特に秋の変化しやすい気候では、各素材の特性を理解して使い分けることが大切です。
素材 | メリット | デメリット | おすすめ用途 |
---|---|---|---|
コットン | 肌触りが良い、安価 | 乾きが遅い、保温性が失われる | 登山では基本的にNG |
化学繊維 | 速乾性、軽量、安価、耐久性 | においが付きやすい | ベースレイヤー、アウターレイヤー |
メリノウール | 保温性、防臭性、肌触り良 | 高価、毛玉ができやすい | ベースレイヤー、ミドルレイヤー |
ダウン | 軽量で高い保温性 | 濡れると保温性低下 | 休憩時・緊急用の防寒着 |
特にコットン素材は登山・トレッキングでは避けるべき素材です。汗を吸収した後に乾きにくく、濡れたままの状態が続くことで体温を奪い、最悪の場合は低体温症の原因となります。
一方、化学繊維とメリノウールはそれぞれ異なる特性を持ちます。化繊は速乾性と耐久性に優れ、メリノウールは保温性と快適性に優れています。予算や用途に応じて選択しましょう。
子連れ登山で気をつけたい服装ポイント

出典:Nemours Children's Health
子連れでの秋トレッキングでは、一般的な服装選びに加えて特別な配慮が必要です。体温調整のしやすさと安全性を重視した服装選びが重要となります。
- 子供向け:着脱しやすいジップアップのジャケットを選び、子供自身でも温度調整できるようにしましょう。
- 視認性の高い色(明るい赤、オレンジ、イエロー)を取り入れ、万一の際の発見しやすさを確保します。
- 予備の着替えを多めに持参し、子供が汗をかいたり汚れたりした場合にすぐ対応できるようにします。
- 休憩時の体温低下防止のため、座る用のマットと追加の防寒着を準備しておきます。
子供は体温調整機能が未発達なため、大人以上に細かい温度管理が必要です。定期的に体調を確認し、寒がったり暑がったりしている様子があれば、すぐに服装を調整しましょう。
トレッキング中の温度調整テクニック

出典:好日山荘 立川店
適切な服装を準備できたら、次は行動中の温度調整テクニックをマスターしましょう。「寒くなってから着る」「暑くなってから脱ぐ」では遅すぎます。
- 登り始める前にミドルレイヤーを脱ぐ:運動開始5分後には体温が上がるため、先回りして調整します。
- ジッパーの開閉で微調整:フルオープンにする前に、胸元や脇のジッパーで段階的に調整します。
- 休憩5分前に防寒着を着用:座って休憩すると急激に体温が下がるため、休憩前に準備します。
- 風の強い稜線では必ずアウターレイヤーを着用し、体温の急激な低下を防ぎます。
温度調整は「予測」が重要です。体が寒さや暑さを感じてから対応するのではなく、これから起こりうる体温変化を予測して、先手を打って調整することで快適性が大幅に向上します。
また、汗をかいてしまった場合は、速やかにベースレイヤーを乾いたものに交換するか、十分に換気を行って汗を乾燥させることが重要です。濡れたままの状態は体温低下の最大の原因となります。
まとめ|「脱ぎ着しやすさ」が快適さのカギ

出典:Colorado Hikes and Hops
秋のトレッキングで最も重要なのは、以下の3つのポイントです。
1. 3層レイヤリングの理解と実践
ベース・ミドル・アウターの各層を適切に組み合わせ、状況に応じて脱ぎ着することで体温調整を行います。
2. 素材選びの重要性
コットンは避け、化学繊維やメリノウールなど、速乾性と保温性を併せ持つ素材を選択します。
3. 先を見越した温度調整
体が寒さや暑さを感じる前に、行動や環境の変化を予測して服装を調整します。
色とりどりの紅葉に包まれた秋の山道を歩く時、適切な服装があれば寒さを気にすることなく、自然の美しさに完全に心を奪われることができるものです。
この記事で紹介した服装選びのポイントを参考に、ぜひ安全で快適な秋のトレッキングを楽しんでください。適切な準備があれば、秋山の素晴らしさを存分に味わうことができるでしょう。
よくある質問
Q.秋トレッキングの服装で最も重要なのは何ですか?
レイヤリング(重ね着)システムの理解と実践が最も重要です。ベース・ミドル・アウターの3層構造を基本とし、気温や行動に応じて各層を脱ぎ着することで体温調整を行います。特に秋は朝晩と日中の寒暖差が大きいため、柔軟な調整ができる服装構成が不可欠です。
Q.コットンのTシャツは絶対にダメですか?
登山・トレッキングではコットン素材は基本的に避けるべきです。コットンは汗を吸収した後に乾きにくく、濡れた状態が続くことで体温を奪います。これは低体温症のリスクを高めるため危険です。代わりに化学繊維やメリノウール製のベースレイヤーを選択しましょう。
Q.晴天予報でもレインウェアは必要ですか?
はい、晴天予報でも必ず携行してください。山の天気は変わりやすく、予報が外れることも多々あります。また、レインウェアは雨具としてだけでなく、風を防ぐウィンドブレーカーとしても機能するため、稜線や風の強い場所での体温維持に重要な役割を果たします。
Q.子供連れの場合、大人と同じ服装で大丈夫ですか?
子供は体温調整機能が未発達なため、大人以上に細かい配慮が必要です。着脱しやすいジップアップの服装を選び、視認性の高い明るい色を取り入れ、予備の着替えを多めに持参することが重要です。また、定期的に体調を確認し、寒がったり暑がったりしている様子があれば、すぐに服装を調整しましょう。