はじめに|なぜ「走ってはいけない」のか?
真夏のサイクリングは想像以上に過酷
夏のサイクリングは、風を感じながら走れるため一見気持ちよさそうに思えます。しかし、実際には照りつける直射日光、路面からの照り返し、そして体力の消耗が重なり、非常に過酷な環境にさらされます。特に初心者〜中級者の方にとっては、思わぬリスクが潜んでいるのです。
危険なコースには共通点がある
「真夏に走ってはいけない」とされるコースには、いくつかの共通点があります。それは、日陰が極端に少ない・補給ポイントが乏しい・路面温度が上昇しやすい・照り返しが強い・風通しが悪いといった要素。これらが重なることで、体調不良や熱中症を引き起こす可能性が格段に高まります。
それでも走りたい“灼熱チャレンジャー”へ
「暑さこそ正義!」「汗をかくほどやる気が出る!」という猛者のあなた。そんなあなたには、万全の準備と装備を整えたうえで、自己責任でのチャレンジをおすすめします。冷感ウェア・氷入りボトル・ネッククーラー・塩分タブレットをフル装備し、常に「引き返す勇気」を持って走りましょう。命あってのサイクリングです。
「無理しない」選択が命を守る
本記事では、経験者の声をもとに「真夏には避けるべき」5つのコースを厳選して紹介します。あくまで季節限定で“危険性が高くなる”コースであり、涼しい時期であれば魅力的な場所も含まれます。無理せず、安全第一でライドを楽しむ判断材料として、ぜひ参考にしてください。
荒川サイクリングロード(東京都・埼玉県)|日陰ゼロの灼熱直線地獄

東京都心からのアクセスも良く、普段使いの練習コースとしても人気の荒川サイクリングロード。しかし真夏になると、状況は一変します。まったくと言っていいほど日陰がなく、路面からの熱気と直射日光が容赦なく身体を襲います。
道幅が広く、信号も少ないことから一定のスピードで走れる快適なルートと思われがちですが、真夏はまさに“灼熱の直線地獄”。体感温度は実際の気温よりも5〜10℃高く感じられることもあり、熱中症や脱水症状のリスクが非常に高いです。
特に、河口に近い南砂町〜清砂大橋エリアは遮るものが一切なく、風も止まりがち。荒川下流の「真夏の午後」は、熟練ライダーですら避けることもあるほど危険度が高いとされています。
― アクセス
JR「赤羽駅」または東京メトロ「南砂町駅」などからルートに出入り可能。サイクリングロードは河川敷全域に広がる。
― おすすめできないポイント
・日陰ゼロで体温調節ができない
・自販機・コンビニが遠く補給しにくい
・風が止まると熱がこもりやすく、照り返しが強烈
日陰のなさと照り返しの強さに注意
荒川沿いは高木が少なく、特に河口部に向かうほど陰を作る構造物が皆無になります。加えて、舗装路の照り返しが非常に強く、足元から上がる熱気と空からの直射日光のダブルパンチ。風があれば救いになりますが、夏は無風・低風の時間帯も多く、体感温度が一気に上がります。
補給ポイントの少なさが命取りに
自販機やコンビニはコースから外れた場所にあることが多く、うっかり補給を忘れると危険です。特に埼玉方面の中流〜上流エリアでは、20km以上補給できない区間もあるため、走行前の水分・塩分の確保とルート確認が不可欠です。
多摩川サイクリングロード(東京都)|午後の向かい風と照り返しに要注意

東京の西側を流れる多摩川沿いのサイクリングロードは、のどかな風景と都市近郊とは思えない開放感が魅力の人気コースです。しかし、真夏にこのコースを選ぶのは要注意。特に午後の時間帯は、向かい風・照り返し・熱気の三重苦が重なり、体力を根こそぎ奪ってきます。
走行距離が比較的長く、アクセスもしやすいため「気軽にロングライドできそう」と感じがちですが、日陰の少なさと補給ポイントの間隔の長さが大きなリスクになります。特に羽田方面に向かう下流区間は、遮るもののない直線が続き、気温と疲労が積み重なる危険地帯と化します。
― アクセス
京王線「調布駅」や東急多摩川線「矢口渡駅」などからアクセス可。上流〜下流まで全長50km以上のロングルート。
― おすすめできないポイント
・午後の向かい風で体感温度が上昇しやすい
・日陰が乏しく、照り返しでバテやすい
・自販機や店舗が遠く、補給のタイミングが限られる
向かい風+太陽の照り返しがキツい!
多摩川CRの定番ルートは「上流→下流」の一方通行的な使われ方が多く、午後に羽田方面へ走ると、西日を正面から浴びながら向かい風と戦う展開になります。この組み合わせが想像以上に体力を奪い、休憩の頻度も増える原因に。しかも水辺のコースで風が吹くと涼しそうに思えますが、実際はアスファルトからの熱波と湿気で余計に不快です。やってられません。
途中離脱ポイントが少ないのも落とし穴
住宅地沿いを走っているにもかかわらず、川沿いから離れない限りはコンビニや自販機が見つからない区間も多く、「もう限界!」と思ってもすぐにはエスケープできません。特に河川敷エリアではコンビニまで1〜2km歩く必要があることも。炎天下の中での補給難民は、まさに命取りです。
国道135号(神奈川県・伊豆)|アップダウン×渋滞×灼熱の三重苦

神奈川県・小田原から静岡県・下田方面へと続く国道135号線は、相模湾を望む絶景ロードとしてサイクリストに人気のルートです。しかし、真夏のこの道を走るのは自殺行為に近いと言っても過言ではありません。理由は明確で、アップダウンの多さ・交通量の多さ・炎天下の厳しさが揃っているからです。
この道はサイクリングロードではなく、完全な幹線国道。夏場は観光シーズンとも重なり、朝から晩まで自動車の渋滞が発生します。大型車も多く、路肩が狭い区間ではヒヤリとする場面も。さらに標高差のあるアップダウンが連続し、体力の消耗も激しい。熱中症と交通リスクの両方が高まるコースといえるでしょう。
― アクセス
スタート地点としてはJR「小田原駅」や「熱海駅」などが一般的。海岸沿いの道路で一本道のためルート自体はわかりやすい。
― おすすめできないポイント
・アップダウンが多く、脚を削られる
・交通量が多く路肩が狭いため危険
・日陰が少なく、照り返しが強烈
観光渋滞と大型車がサイクリストを襲う
真夏の伊豆は観光客で溢れ、国道135号は朝から夕方まで断続的な渋滞が発生します。クルマがゆっくり動く分安全そうに思えますが、実際は大型車のすれ違いやバスの追い越しなどが発生しやすく、非常に神経を使う展開に。また渋滞時の車のエンジン熱も重なり、体感温度はさらに上昇します。
自販機すら見落とすほどの補給難易度
海沿いのため「補給には困らなそう」と思いきや、道路沿いのコンビニは少なめ。特に坂道の途中やカーブの連続区間では、自販機が見えても止まりにくい場所に設置されていることも多く、水分補給のタイミングを逃しやすいのが落とし穴。汗だくで上り続けると、一気に脱水症状に近づきます。
利根川サイクリングロード(茨城県)|補給難民続出の乾いたロングコース

利根川沿いに広がるサイクリングロードは、関東屈指のロングライドルート。車道を避けて安心して走れる上に、信号もほとんどなく、ペースを崩さずに走れると人気です。しかし、真夏の利根川CRは別物。広大な河川敷と農地を縫うコースは、遮るものが一切ない「灼熱の一本道」と化します。
一番の問題は、補給ポイントが極端に少ないこと。20〜30km走っても自販機ひとつ見つからない区間があるほどで、特に初めて走る人にとっては“補給難民”状態になりかねません。地形的にも日陰ができにくく、気温が35℃を超えるような日は、文字通り命に関わるレベルの暑さになります。
― アクセス
起点は埼玉県〜茨城県の広範囲にまたがり、最寄り駅はJR取手駅、古河駅、利根川橋付近など複数あり。
― おすすめできないポイント
・補給ポイントがほとんどない
・日陰ゼロで逃げ場がない
・似た景色が続き、精神的にもきつい
とにかく「自販機がない」ことに注意
利根川沿いのルートは、河川管理用道路と農道を組み合わせた構造のため、商業施設が極端に少ないのが最大の特徴。住宅も少ないため、自販機すら見つからないまま数十km走る可能性があります。水の残量を確認せずに走り出すと、後悔では済まない事態に。
地味にきつい「逃げられない構造」
途中で暑さに耐えられなくなっても、道路の両側が用水路や畑に囲まれていて、すぐにコースを離脱できないのもこのルートの難点。最寄りの道路や駅まで5〜10km離れていることもあり、「無理!」と感じてからの行動が遅れると危険度が増します。しかも炎天下での歩行は体力を消耗しやすく、回復どころか悪化の一途をたどる可能性も。
霞ヶ浦一周(茨城県)|風なし・逃げ場なし・地獄の湖畔ロード

普段は「カスイチ」の愛称で親しまれ、初心者にも優しいなだらかなロングライドコースとして人気の霞ヶ浦一周。アップダウンがほとんどなく、信号も少ないため、走りやすさでは関東屈指のルートです。土浦駅周辺のレンタサイクル環境も整っており、ビギナーにも開かれた入門的な一周コースといえるでしょう。
しかし、その穏やかな印象は真夏には一変します。遮るもののない湖岸道路を100km以上走る構造に加え、風が吹かない日には蒸し暑さが身体にまとわりつくような感覚に。湖面の温度も上昇しており、期待される涼感はまったく得られません。
さらに、同じような風景が延々と続くことで集中力が切れやすくなり、熱中症や脱水症状に気付くタイミングを逃すケースもあります。夏だけは「気軽に一周」とは言いづらい、要注意ルートです。
― アクセス
土浦駅(JR常磐線)や石岡駅からスタートするのが一般的。レンタサイクル拠点も複数あり。
― おすすめできないポイント
・湖岸ルートに日陰がなく灼熱が続く
・風が吹かないと蒸し風呂のような体感に
・100km超のロングコースで離脱しづらい
日陰ゼロの湖畔道路にご注意
かすいちルートは、湖岸に沿ってぐるりと一周する構造ですが、そのほとんどが田園と湖の間に挟まれた一直線の道。木陰はなく、アスファルトと水面からの熱気で、体感温度は真夏の炎天下そのもの。特に午前〜午後のピークタイムに走ると、熱中症の危険性が非常に高まります。
コンビニが遠く、補給の選択肢も少ない
都市部から離れているため、補給ポイントが限られます。特に北東側エリア(行方市〜美浦村あたり)は、コンビニが5〜10km以上離れていることも珍しくありません。途中で立ち寄れる場所を事前に把握しておかないと、補給切れで動けなくなるリスクがあります。さらに、湖の中心部ではエスケープルートも限られるため、無理に一周を目指すと取り返しがつかなくなることも。
真夏のコース選びに関するよくある質問
Q. 真夏でも安全に走れる時間帯はありますか?
一般的には早朝(5時〜8時)が最も安全です。気温が安定しており、直射日光も弱めで交通量も少ないため、涼しいうちに距離を稼げます。夕方は気温が下がりますが、帰宅ラッシュや日没の視界悪化があるため、ライト装備と反射材の準備を忘れずに。
Q. どうしても長距離を走りたいときは、何に気をつけるべき?
最も大事なのは水分と塩分の確保です。走行前に経口補水液などで体内を潤し、1時間に1回はボトルの水を飲むよう意識しましょう。また、「暑くなってから止まる」のではなく、暑くなる前に休むのが鉄則です。冷感グッズや氷ボトルの活用も有効です。
Q. 体調不良に気づいたときの対処法は?
めまい、頭痛、手足のしびれ、鳥肌などが出たら熱中症の初期症状の可能性があります。すぐに日陰に移動し、水分と塩分を補給しましょう。改善しない場合は走行を中止し、最寄りの駅やコンビニなどで休息を取るようにしてください。
Q. 初心者は真夏でも走っていいですか?
無理に走る必要はありません。特に記事で紹介したようなコースは非推奨です。特にビギナーの方は、春・秋など気候の良い季節から始めるのがおすすめです。どうしても夏に走りたい場合は、1〜2時間の短時間ライドに留め、こまめな休憩と装備の準備を忘れずに。辛い思いをしてサイクリングが嫌いになってしまったらもったいないです!
まとめ|“無理をしない”が最強の選択
夏のサイクリングは爽快感がある反面、気温・直射日光・路面の熱・補給不足など、複数の要因が重なることで危険度が一気に高まります。本記事で紹介したような「真夏に走ってはいけないコース」は、季節さえ変われば絶景や走行快適性を楽しめる名ルートでもあります。しかし、真夏に限っては別の顔を持つことを忘れてはいけません。
特に初心者〜中級者の方にとっては、「走れる」=「走っていい」ではないことを意識することが大切です。「自分はまだ大丈夫」と思っていても、体は思った以上にダメージを受けています。無理せず引き返す判断、走らない選択は、結果的にサイクリングを長く楽しむうえで最も賢明な判断です。
それでもどうしても走りたい!という方は、装備・補給・コース確認・時間帯選びを徹底したうえで、慎重にライドを組み立ててください。そして、暑さでつらいと感じたら、ためらわずに休む・中止する勇気を持ちましょう。
「また走りたい」と思えるサイクリングを続けるために、暑さと上手に付き合うことが、夏を乗り切る最強のコツです。