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登山のパッキング術(詰め方)完全ガイド|疲れにくいザックの背負い方とコツ

登山の疲れはパッキングで決まる?本記事では、疲れにくいザックの詰め方の基本原則(重いもの・軽いものの配置)から、具体的なパッキング術、正しい背負い方のコツまでを徹底解説。初心者でも実践できるテクニックで、快適な登山を実現します。
目次

登山を始めたばかりの方や、「ザックが重くて肩が痛い」「すぐに疲れてしまう」と感じている方にとって、パッキング(荷物の詰め方)は劇的に登山の快適性を変える重要なスキルです。同じ重量の荷物でも、詰め方ひとつで体感する重さは大きく変わります。

本記事では、登山のパッキングの基本原則から、具体的な詰め方の手順、疲れにくいザックの背負い方まで、初心者の方でもすぐに実践できるテクニックを徹底解説します。正しいパッキング術を身につけて、より快適な登山を楽しみましょう。

登山パッキングの基本原則|重心と配置が疲労を左右する

ザック内部の配置図
ザック内部を上・中・下のゾーンに分け、重心を意識した配置が基本
出典:登っちゃえば?

重心の位置が快適性を決める理由

登山のパッキングで最も重要なのは、重心の位置を体に近く、かつ適切な高さに配置することです。重心が体から離れるほど、荷物を支えるために必要な力が増大し、肩や腰への負担が大きくなります。

物理的には、重い荷物を体の中心軸に近づけ、背中の上部(肩甲骨の少し上あたり)に配置することで、荷重が体幹で支えられ、歩行時のバランスも安定します。逆に、重心が低すぎたり外側に偏ったりすると、引っ張られるような感覚が生まれ、疲労が蓄積しやすくなります。

基本の配置ルール:重いものは背中側の上部に

パッキングの基本原則は以下の2点です:

  • 重いものはザックの上部、背中側に配置
  • 軽いものはザックの下部、外側に配置

この原則を守ることで、ザック全体の重心が背中の中心より少し上に位置し、体への負担が最小限に抑えられます。ただし、肩より高い位置に重いものを入れすぎると左右に振られやすくなるため、バランスに注意が必要です。

※体力や体格、ザックの容量により最適な重心位置は個人差があります。実際に背負って歩きながら微調整することをおすすめします。

ザック内部のゾーン分けとパッキング手順

ゾーン別パッキング例
ザック内部を4つのゾーンに分けて考えると、効率的なパッキングが可能に
出典:YAMA HACK

ザック内部を下部・中部(背面側)・上部・外側の4つのゾーンに分けて考えると、パッキングが格段にスムーズになります。それぞれのゾーンに適したアイテムを配置しましょう。

下部ゾーン:軽量でかさばるもの

ザックの最下部には、軽量でかさばるアイテムを入れます。具体的には:

  • 寝袋(シュラフ)
  • ダウンジャケットなどの防寒着
  • 着替えの衣類

これらのアイテムは使用頻度が低く、テント場や山小屋に到着するまで取り出さないことが多いため、ザックの底に配置します。また、軽量なアイテムを下に配置することで重心が上がり、歩行時の安定性が向上します。

中部(背面側)ゾーン:最も重いもの

ザックの中央部、特に背中に接する背面側には、最も重量のあるアイテムを配置します:

  • テント本体(ポールを除く)
  • 食料(水を除く)
  • 調理器具・バーナー
  • ハイドレーションシステムの水分

背面側に重いものを配置することで、重心が体に近づき、背負った際の安定感が大きく向上します。逆に、重いものを外側(ザックの前面側)に入れると、後ろに引っ張られるような感覚が生まれ、バランスを取るために余計な体力を消耗します。

上部ゾーン:比較的重く、取り出し頻度の高いもの

ザックの上部には、比較的重量があり、かつ行動中に取り出す可能性のあるものを配置します:

  • レインウェア(上下)
  • ミドルレイヤー(フリースなど)
  • 行動食
  • 救急セット

天候の急変に備えて、レインウェアや防寒着は素早く取り出せる上部に配置しておくのが鉄則です。ただし、上部に重すぎるものを入れすぎると、歩行時にザックが左右に振られやすくなるため、バランスを意識しましょう。

外側・サイドポケット:緊急時・頻繁に使うもの

ザックの外側ポケットやサイドポケットには、行動中に頻繁に使うものを配置します:

  • 水筒・ペットボトル(サイドポケット)
  • 地図・コンパス
  • ヘッドランプ(予備)
  • 日焼け止め・虫除けスプレー
  • 行動食(すぐ食べられるもの)

サイドポケットには500ml~1Lの水筒を入れておくと、ザックを下ろさずに水分補給ができて便利です。ただし、左右の重量バランスが偏らないよう注意してください。

※ザックによっては雨蓋(トップリッド)やヒップベルトポケットも活用できます。緊急時に必要なホイッスルやファーストエイドキットは、アクセスしやすい位置に配置しましょう。

アイテム別の配置例|実践的なパッキング術

実際のパッキング例
アイテムごとに定位置を決めておくと、パッキングがスムーズになる
出典:YAMA HACK

具体的なアイテム別の配置例を表にまとめました。日帰り登山とテント泊では持ち物が異なりますが、基本原則は同じです。

配置場所 アイテム例 理由・ポイント
ザック下部 寝袋、ダウンジャケット、着替え 軽量でかさばる。使用頻度が低い。
中部・背面側 テント本体、食料(主食)、調理器具、水(ハイドレーション) 最重量。体に近い位置で重心安定。
上部 レインウェア、ミドルレイヤー、行動食、救急セット 取り出し頻度が高い。比較的重量あり。
雨蓋(トップリッド) 地図、コンパス、ヘッドランプ、日焼け止め 頻繁に使う小物。緊急時すぐアクセス。
サイドポケット 水筒、トレッキングポール 行動中に使用。左右のバランスに注意。
ザック外部(外付け) テントポール、マット(巻いて固定) 長尺物。ただし歩行時に引っかかりやすいため注意。

パッキングのコツは、「重いものは背中側・上部」「軽いものは外側・下部」「よく使うものは取り出しやすい位置」という3つの原則を常に意識することです。

パッキング前のチェックリスト

  • すべての荷物を床に広げて確認
  • 重量のあるものを仕分ける
  • 使用頻度を考慮して配置順を決める
  • 左右のバランスを確認
  • 緊急時のアクセス経路を確保

疲れにくいザックの背負い方とフィッティング調整

ザックのフィッティング手順
正しいフィッティングの手順を守ることで、体感重量が大幅に軽減される
出典:さかいやスポーツ

どんなに完璧にパッキングしても、ザックのフィッティングが正しくなければ、その効果は半減します。正しい背負い方をマスターすることで、同じ荷物でも驚くほど軽く感じられます。

ステップ1:ヒップベルトを腰骨の位置で固定

まず、すべてのストラップ類を緩めた状態でザックを背負います。その後、ヒップベルト(腰ベルト)を腰骨の一番出っ張った部分に合わせてしっかりと固定します。

ヒップベルトは、荷重の約70~80%を腰で支えるための最も重要なパーツです。おへその上ではなく、腰骨の位置で締めることで、骨盤で荷重を受け止められます。ベルトはしっかりと締めますが、呼吸が苦しくならない程度に調整してください。

ステップ2:ショルダーストラップの調整

ヒップベルトを固定したら、次にショルダーストラップ(肩ベルト)を引いて調整します。ショルダーストラップは、ザックを体に引き寄せるとともに、残りの荷重(約20~30%)を肩で支える役割があります。

締めすぎると肩への負担が大きくなり、緩すぎるとザックが体から離れてしまいます。ショルダーベルトの付け根が、肩の付け根から5cm程度下の位置にくるのが理想的です。

ステップ3:チェストストラップで安定性を高める

チェストストラップ(胸ストラップ)を、胸の中央よりやや下の位置で固定します。チェストストラップは、ショルダーベルトが外側に開くのを防ぎ、歩行時のザックの左右のブレを抑える役割があります。

締めすぎると呼吸が苦しくなるため、適度な緩みを持たせつつ、ショルダーベルトが外に開かない程度に調整してください。

ステップ4:ロードリフターストラップで微調整

最後に、ロードリフターストラップ(肩ベルト上部から斜め上に伸びるストラップ)を調整します。このストラップを引くことで、ザック上部が体に引き寄せられ、重心が高くなります。

ロードリフターストラップとザックの角度が約45度になるのが理想的です。引きすぎるとザック上部が体に押し付けられ、緩すぎるとザックが後ろに傾いて重心が不安定になります。

※フィッティングは出発前だけでなく、登山中に何度も微調整することが重要です。疲労が溜まると体の姿勢が変わるため、休憩時にストラップを調整し直すことで快適性が維持できます。

  1. ヒップベルトを腰骨の位置でしっかり締める(荷重の70~80%を腰で支える)
  2. ショルダーストラップを調整(肩の負担を最小限に)
  3. チェストストラップで左右のブレを防ぐ
  4. ロードリフターストラップで重心を微調整(45度の角度が目安)

パッキングでよくある失敗例と改善策

正しい重心と間違った重心の比較
重心の位置によって歩行時の安定性は大きく変わる
出典:CERRO TORRE

初心者の方が陥りがちなパッキングの失敗例と、その改善策をご紹介します。

失敗例 問題点 改善策
重いものを下部に詰める 重心が低すぎて、引きずられるような感覚。体が前傾しやすい。 重いものは背中側の中部~上部に配置する。
外側に重いものを配置 重心が体から離れ、後ろに引っ張られる。肩・腰への負担大。 重いものは常に背面側に配置する。
左右のバランスが悪い 歩行時にザックが傾き、バランスを取るために余計な体力消耗。 水筒など重いものは左右均等に配置。定期的に確認。
ザック内に隙間が多い 歩行時に荷物が動き、ガサガサ音がして不快。重心も不安定。 衣類や小物で隙間を埋める。スタッフバッグを活用。
レインウェアを奥に詰める 急な雨で取り出せず、全ての荷物を出す羽目に。 レインウェアは必ず上部または雨蓋に配置。
ヒップベルトをおへその上で締める 荷重が骨盤で支えられず、肩だけで背負う形に。疲労が早い。 ヒップベルトは腰骨の位置で固定する。

筆者も登山を始めたばかりの頃、重い水のボトル(2L)をザックの底に入れてしまい、歩くたびに後ろに引っ張られる感覚に悩まされた経験があります。ベテランの登山仲間にアドバイスをもらい、水を背面側の中部に配置し直したところ、驚くほど軽く感じられるようになりました。

※パッキングは経験を積むことで上達します。最初は時間がかかっても、毎回の登山で配置を見直し、自分にとって最適な方法を見つけていきましょう。

よくある質問(FAQ)

日帰り登山とテント泊でパッキングの方法は変わりますか?

基本原則(重いものは背中側の上部、軽いものは下部・外側)は同じですが、テント泊の場合は荷物が大幅に増えるため、より綿密な配置計画が必要です。特に、テント本体(最重量)を背面側の中部に、寝袋(軽量・かさばる)を最下部に配置することがポイントです。日帰りの場合は、レインウェアや行動食など取り出し頻度の高いものを上部に集中させると便利です。

水のボトルはどこに入れるのが正解ですか?

水は重量があるため、配置場所が重要です。ハイドレーションシステムを使用する場合は背面側の中部に配置し、ペットボトルや水筒の場合はサイドポケットに入れるのが一般的です。サイドポケットに入れる場合は、左右のバランスを取るため、両側に均等に配置してください。ザック内部に入れる場合は、背面側の中部~上部に配置し、重心を体に近づけましょう。

ザックがパンパンで、もう入りません。どうすればいいですか?

まず、本当に必要なものだけを持っているかを見直しましょう。初心者の方は「念のため」で余分な荷物を持ちがちです。また、衣類はコンプレッションバッグで圧縮する、スタッフバッグで小分けにして隙間を埋めるなどの工夫で容量を節約できます。それでも入らない場合は、ザックの容量が不足している可能性があります。日帰りなら25~30L、テント泊なら50~70L程度のザックが一般的です。

肩だけが痛くなります。ザックの背負い方が間違っているのでしょうか?

肩だけに負担がかかっている場合、ヒップベルトが正しく機能していない可能性が高いです。ヒップベルトは腰骨の一番出っ張った部分でしっかりと締めることで、荷重の70~80%を腰で支えることができます。また、ショルダーストラップを締めすぎていないかも確認してください。ショルダーストラップは、ザックを体に引き寄せる役割であり、荷重の大部分を支えるものではありません。フィッティングを見直すことで、肩の痛みは大幅に改善されるはずです。

テントのポールやマットは外付けしても大丈夫ですか?

テントポールやマット(巻いて固定)は、ザック外部に取り付けることが可能です。ただし、歩行中に木の枝などに引っかかりやすいため、狭い登山道や樹林帯では注意が必要です。また、外付けすると重心が不安定になりやすいため、できる限りザック内部に収納することをおすすめします。どうしても内部に入らない場合は、ザック下部の外側に横向きに固定し、バランスを保つようにしましょう。

雨の日のパッキングで注意すべきことはありますか?

雨の日は、防水対策が最優先です。ザック全体をレインカバーで覆うのは基本ですが、内部の荷物もスタッフバッグやジップロックで個別に防水しておくと安心です。特に、寝袋や着替えなど濡れると致命的なものは必ず防水バッグに入れましょう。また、レインウェアは必ず上部または雨蓋に配置し、急な雨でもすぐに取り出せるようにしてください。濡れた衣類はザックの外側に取り付けるか、防水バッグに入れて他の荷物と分けて管理します。

まとめ:パッキングをマスターして快適な登山を

登山のパッキングは、「重いものは背中側の上部」「軽いものは下部・外側」「よく使うものは取り出しやすい位置」という3つの基本原則を守ることで、驚くほど快適になります。同じ荷物でも、詰め方ひとつで体感する重さは大きく変わるのです。

また、正しいフィッティング(ヒップベルトを腰骨の位置で固定、ショルダーストラップで体に引き寄せる、チェストストラップで安定性を高める)を習得することで、荷重の大部分を腰で支え、肩や背中への負担を最小限に抑えられます。

パッキングは経験を積むことで上達します。最初は時間がかかっても、毎回の登山で配置を見直し、自分にとって最適な方法を見つけていきましょう。正しいパッキング術を身につけることで、より長時間、より快適に山を楽しめるようになります。

次回の登山では、ぜひ本記事で紹介したテクニックを実践してみてください。きっと、これまでとは違う快適さを実感できるはずです。安全で楽しい登山をお楽しみください!