この記事でわかること|山と海、森と火山をつなぐ道を歩こう
ロングトレイルの“次の一本”を探している人へ
山を歩くのが好き。自然の中で静かに過ごしたい。
でも、日帰り登山や定番の縦走路はひと通り行ったし、そろそろ“歩く旅”にも挑戦してみたい——
そんな人におすすめなのが、伊豆山稜線歩道です。
この道は、伊豆半島の中央部を貫くように、天城峠から万三郎岳、戸塚峠までを結ぶ約40kmの縦走トレイル。
ブナの森、火山の地形、海と空の大展望と、変化に富んだ風景が続き、「ただ歩くだけじゃない面白さ」が詰まっています。
全線歩くもよし、一部を楽しむもよし

この記事では、伊豆山稜線歩道を「全線踏破したい人」向けに紹介しつつ、
時間や体力に応じて選べるセクションハイクの楽しみ方もあわせて提案します。
あわせて、
どこからどう歩く?
どんな装備が必要?
日帰りでも行ける?
電車やバスでアクセスできる?
といった実用的な情報もカバー。
これから伊豆の自然に出会ってみたい人にとって、“最初の一本”としてもぴったりのロングトレイルです。
伊豆山稜線歩道とは?|火山がつくった稜線を歩くロングトレイル
全長約40km。天城峠〜戸塚峠をつなぐ縦走ルート

伊豆山稜線歩道は、静岡県の伊豆半島中央部に位置する全長約40kmのロングトレイル。
起点の天城峠から、八丁池、万三郎岳、仁科峠などを経て、終点の戸塚峠までを2〜3日かけて縦走します。
道中には伊豆半島最高峰の万三郎岳(1,406m)や、ひっそりとたたずむ八丁池、伊豆の海が一望できる稜線展望地など見どころが豊富。
縦走路としての歩きごたえもありながら、全体的に標高が低く、前後泊で対応できるのがこの道の良さです。
森と海、火山と稜線——伊豆らしい風景が次々と現れる


伊豆山稜線歩道は、伊豆半島ジオパークの中心を貫くように伸びているのが最大の特徴。
歩くごとに火山が作り上げた複雑な地形が変化し、ブナやヒメシャラの森、苔むした尾根道、火山岩の稜線、そして海を望む大パノラマと、飽きる暇がありません。
なかでも、火口湖・八丁池の静けさ、伊豆最高峰・万三郎岳(1,406m)からの展望、仁科峠から見渡す駿河湾の風景は、特に印象に残る名所。
火山と森と海の“地質の物語”を、足元から実感できる稜線道です。
また、標高差も適度にあり、登山道としての歩きやすさと縦走の達成感を両立できるバランスの良いコース。
「登山よりは長く、縦走ほど重くない」——ロングトレイル入門にもぴったりな一本と言えるでしょう。
どこからどう歩く?|スタイル別おすすめプラン
伊豆山稜線歩道は、天城峠から戸塚峠までを縦走する全長約40kmのトレイル。
時間や体力に合わせて、全線踏破/2Daysセクションハイク/日帰りの3つのスタイルで楽しめます。
全線踏破|1泊2日で歩き通す縦走モデルプラン※野営あり
伊豆山稜線歩道(天城峠〜戸田峠・約40km)を1泊2日で踏破するスタイルは、健脚な中級者向けのチャレンジングなプランです。
途中での野営(テント泊)を前提とするため、装備・行程・天候対策を含めた綿密な計画が必要です。
モデル行程の一例:
1日目: 天城峠からスタートし、八丁池、万三郎岳、仁科峠を経て、宇久須峠付近でテント泊
2日目: 宇久須峠から風早峠、船原峠、達磨山を越え、終点・戸田峠へ
途中のテント泊候補地としては、宇久須峠・風早峠・あまぎの森駐車場などが挙げられます。
(筆者はあまぎの森駐車場を利用。トイレがあるのも助かりました)※ただし、いずれも正式なキャンプ指定地ではありません。
※利用時は自己責任のもと、他の登山者や地域住民への配慮を忘れずに。
※自然保護区内での野営は禁止されている場所もあるため、事前確認が必須です。
※直火は禁止です。
また、コース上に水場やトイレは非常に限られているため、出発前の水確保と、行動計画・緊急時対応を含めた準備がとても重要になります。
あまぎの森駐車場はこの辺です
2Daysで歩くなら|天城峠〜八丁池〜万三郎岳
「いきなり全線はハードルが高い…」という方には、中間セクションを歩く1泊2日プランがおすすめです。
縦走の雰囲気をしっかり味わいつつ、無理なく楽しめるバランスの良い行程です。
モデル行程:
1日目(歩行日): 天城峠からスタートし、八丁池・万三郎岳・万二郎岳を経て、天城縦走登山口に下山。
この区間では、ブナ林と苔むす森、火山地形が生んだ稜線の展望など、伊豆ならではの自然が凝縮されています。
行動時間は6〜8時間程度を想定し、朝の早い時間にスタートできるかどうかがカギとなります。
そのため、前日に登山口近くまで移動しておく“前泊スタイル”が主流です。
(※歩行は1日だが、前泊を含めて1泊2日の行程)
宿泊例:
初日は天城湯ヶ島温泉郷などで前泊し、早朝にバスまたはタクシーで登山口へ。
温泉でリフレッシュしつつ、体調を整えてから登山に臨めるのもこのルートの魅力です。
なお、このプランではテント泊の必要はなく、宿泊施設を活用できるため、装備も比較的軽量で済みます。
ロングトレイル入門や、次の全線踏破へのステップとしても最適なコースです。
日帰りで楽しむなら|八丁池周辺 or 万三郎岳ピストン
「伊豆山稜線歩道の雰囲気だけでも味わってみたい」という方には、日帰りハイキング対応の区間もおすすめです。
万三郎岳ピストン:天城高原ゴルフ場から往復。
八丁池周遊ハイク:八丁池口からピストンまたは周回。
これらのコースは、登山としての達成感もありつつ、稜線や森歩きの要素をしっかり楽しめます。道標も整備されており、トレイル初心者でも歩きやすい入門ルートとして人気があります。
歩く魅力|風景・地質・自然の変化が面白い
火山の稜線から望む相模湾と伊豆の海

伊豆山稜線歩道の最大の特徴は、火山地形の稜線を歩きながら、海を見下ろせる展望が得られること。
とくに晴れた日の万三郎岳〜万二郎岳の区間では、相模湾や伊豆七島、天城連山のスカイラインが一望できます。
高原と山、そして海が同時に視界に入るこの風景は、まさに伊豆ならではの特権。
都市部からのアクセスもしやすい場所で、これだけの大展望が楽しめるのは貴重です。
ブナ・ヒメシャラが広がる伊豆の森を歩く

標高1,000mを超える区間では、関東近郊ではめずらしいブナの自然林が広がります。
特に八丁池周辺や天城峠〜万三郎岳の区間では、ヒメシャラやサワグルミと混じったしっとりとした森歩きが魅力です。
季節ごとの表情も豊かで、
新緑の芽吹き(5月〜6月)
紅葉の彩り(10月中旬〜下旬)
は毎年人気の時期。木漏れ日と霧が混ざる朝の森は、幻想的な雰囲気に包まれます。
八丁池や万三郎岳など伊豆屈指の名所を通る

このトレイルのハイライトのひとつが、“天城の瞳”とも呼ばれる八丁池。
静かな水面に森が映り込む様子は、伊豆の山岳地における象徴的な風景として多くの登山者に愛されています。
また、万三郎岳(1,406m)は伊豆半島の最高峰。
山頂からの見晴らしも良く、トレイルの中間地点としての達成感も味わえるポイントです。
道中には木道や展望台、苔むした岩場などもあり、飽きのこないトレイル構成が歩く楽しさを引き立ててくれます。
装備とアクセス|山道だけど歩きやすい?
コースは整備されているが“登山寄り”の装備が基本
伊豆山稜線歩道は、全体的に整備された登山道が続いているものの、あくまで自然地形を活かした山道です。
とくに万三郎岳周辺の急登・八丁池〜仁科峠の稜線では、アップダウンも多く、登山経験が前提と考えたほうが安心です。
服装は以下のような登山装備寄りのスタイルを推奨します:
速乾性のあるウェア
防寒着(夏でも朝夕は冷え込む)
レインウェア(天候変化が早い)
ミッドカット以上の登山靴
軽装ハイキングで入山する方も見かけますが、標高差・地形・天候を踏まえると、全区間を安全・快適に歩くにはしっかりした登山装備がベストです。
特に全線踏破を目指す場合は、テントや寝袋などを含めた完全な縦走装備が必要になります。
野営ポイントにはトイレや水場が限られているため、水の携行・天気の確認・非常時対応の準備も忘れずに行いましょう。
私はこんな装備で行ってます
- エバーブレスフォトンジャケット
公共交通とアクセスのコツ|バス利用がカギ
スタート地点の天城峠・天城高原ゴルフ場付近や、ゴール地点の戸塚峠・仁科峠エリアには、
バスを乗り継いでアクセスする形になります(伊豆急下田駅、修善寺駅などが玄関口)。
ただし、バスの本数が少ない区間もあるため、
行きは朝早めの便を利用
帰りのバス時刻は必ず事前チェック
万が一に備えてタクシー連絡先も控えておく
といった事前準備が必要です。
公共交通でのアクセスが可能なロングトレイルとしては、比較的ハードルは低めと言えるでしょう。
宿泊・キャンプ情報|道中はテント泊不可なので要計画
伊豆山稜線歩道には、公認のテント場や山小屋は整備されておらず、特に中間地点(八丁池〜仁科峠付近)には宿泊施設がありません。
そのため、一般的には下記のようなスタイルで宿を利用した縦走が選ばれています。
前泊:天城湯ヶ島温泉郷や修善寺周辺の宿 → 早朝スタート
後泊:松崎町や土肥温泉など、ゴール地点周辺の宿
これにより、荷物を軽量化しつつ、温泉などのご褒美も組み込める「快適なロングトレイル」が実現します。
一方、全線を歩き通すためには、どこかで野営を挟む必要があるのが現実です。
中でも以下のような場所は、過去の記録でもテント泊地として選ばれています:
宇久須峠付近
風早峠付近
あまぎの森駐車場(※トイレあり・私も利用経験あり)
ただし、いずれも正式なキャンプ指定地ではありません。利用する際は、
他の登山者や地域住民に配慮する
直火を行わない
ゴミや排水は持ち帰る
など、自己責任の範囲で最低限のマナーを守ることが求められます。
自然保護区内でのキャンプは禁止されているエリアもあるため、最新の現地情報を確認したうえで、安全・快適な行動計画を立てましょう。
伊豆山稜線歩道Q&A|歩く前に知っておきたい疑問5選
Q. どの季節がベストシーズンですか?
春(5月〜6月)と秋(10月〜11月)がベストです。
新緑と紅葉が見事で、気温も安定して歩きやすい時期。夏は涼しいですが午後の雷雨に注意、冬は積雪や凍結の可能性があります。
Q. どちらから歩くのがおすすめ?天城峠 or 戸塚峠?
初心者〜中級者には天城峠→戸塚峠(東→西)の順が人気です。
理由は、はじめに高度を稼ぎやすく、後半に展望やなだらかな稜線が続くため、体力的にも気持ち的にも歩きやすいためです。
Q. テント泊はできますか?
基本的には、公認のテント場はありません。
そのため、前泊や後泊で宿泊施設を活用するスタイルが安心です。
ただし、「どうしても全線を歩き通したい!」という場合は、宇久須峠やあまぎの森駐車場などでテント泊を組み合わせる方法もあるにはあります。
※いずれも正式なキャンプ指定地ではないため、静かに・控えめに・自己責任でが大前提。
Q. 熊や野生動物の対策は必要ですか?
このエリアにはツキノワグマの目撃情報もあり、熊鈴やベアスプレーの携行を推奨します。
特に万三郎岳周辺のブナ林では注意喚起の看板がある区間も。朝夕は特に注意しましょう。
Q. YAMAPなどの登山アプリだけで道迷いは防げますか?
伊豆山稜線歩道はYAMAP等に対応していますが、一部圏外エリアがあり、バッテリー切れのリスクも。
念のため紙の地図も携行するのがおすすめです。標識は整備されていますが、分岐では地図で再確認を。
まとめ|森と火山と海をつなぐ稜線を、自分の足でたどろう
自然豊かな伊豆半島の中央部を貫く、全長約40kmのロングトレイル
稜線から海を見下ろし、八丁池や万三郎岳などの名所も通過
山道中心のルートだが、宿泊施設やアクセス手段が整っていて挑戦しやすい
登山装備寄りの準備が必須だが、ロングトレイル入門としてもおすすめ
セクションハイクで少しずつ楽しむこともできる柔軟な構成
「登山とハイキングのあいだ」「縦走と観光のあいだ」
そんな中間に位置する伊豆山稜線歩道は、ロングトレイルに興味がある人にとって絶好のフィールドです。
この週末、少し長めの距離に挑戦してみませんか?
森と火山と海がつながる場所で、“歩く旅”の新しい景色がきっと見つかります。