新しい登山靴を買うと、たいてい「山に行く前に慣らしてください」と言われます。
それはそのとおりなのですが、何をどこまでやれば慣らしたことになるのかは、あまり書かれていないんですよね。私も最初、近所を1時間歩いて「これでいいのかな」と思っていました。
この記事では慣らしの目的をはっきりさせたうえで、期間の目安と、痛くなったときの対処を書きます。あわせて「アスファルトを歩くとソールが削れるのでは」という心配にも答えます。ここ、実は半分あたっています。
慣らしの目的は、柔らかくすることではない
まずここを間違えると、時間の使い方がずれます。
靴は、そんなに柔らかくならない
ただ、昔の総革の登山靴なら、履き込んで革を足の形に馴染ませる、という話が成り立ちました。今よく売られている化繊とゴアテックスの靴は、そこまで大きくは変わりません。
変わるのは、アッパーの折れる場所が決まってくることと、中敷きが足裏の形に沈むことくらいかなと思います。「歩いていればそのうち馴染む」を期待して山に行くと、痛いまま下山することになります。
本当の目的は、当たる場所を先に見つけること
では何のためにやるのか。山で初めて痛くなるのを避けるためです。
靴が足に合っているかどうかって、店で5分履いただけでは分からないんですよね。1時間歩いて初めて出てくる当たりがあります。それを、帰る手段のある場所で見つけておく。これが慣らしの中身です。
だから慣らしは「距離を稼ぐ作業」ではなく「点検」なんですよね。ここが分かると、次のアスファルトの話も見え方が変わります。
アスファルトで慣らすと、削れるのか
検索していると、この心配をしている方がかなりいます。結論から書きます。
削れるのは本当、ただし数時間なら無視できる範囲
登山靴のソールは舗装路で減ります。これは本当です。山の岩や木の根をつかむために、ゴムがやわらかめに作られているからで、硬い路面ではそのぶん削れます。
ただ、慣らしに必要なのは数時間です。数時間の舗装路歩きでソールが寿命を迎えることはありません。ちなみに私は毎回ふつうに舗装路を歩いています。そこまで心配するほどのことではないかなと思います。
問題になるのは「山用の靴を通勤や普段履きにしてしまう」ほうです。毎日アスファルトを何キロも歩けば、当然ながら山に行く前にソールが減っていきます。
ソールが減ると、何が困るか
ここは安全に関わるので、メーカーの言い方をそのまま引きます。モンベルは登山靴の点検について、「かかとやつま先部の減りが目立ってきてはいませんか?」「摩耗が目立つ場合は、張り替えや買い替えを検討しましょう」と案内しています。
すり減ったソールはグリップが落ちます。困るのは濡れた岩と下りの土で、どちらも転ぶと大きいところですよね。
気になるなら、土の上でやればいい
ここが今回いちばん言いたいところです。アスファルトは手段であって、目的ではありません。
慣らしの目的が「当たる場所を見つけること」なら、路面はどこでもかまいません。河川敷、公園の土の園路、近所の神社の階段。むしろこちらのほうが本番に近いので、私はこっちを勧めます。
それでも舗装路に価値がある場面はあって、雨の日です。土のところが泥だと洗うのが面倒なので、そういう日は舗装路で階段だけ探して上り下りする、という使い分けをしています。
やっておきたいのは、平地より坂と階段
平らな道をまっすぐ歩いても、当たりはあまり出ません。出るのは坂と階段です。
登りではかかとが浮くか、下りではつま先が前に当たるか。この2つが山で痛くなる場所そのものなので、慣らしのときに必ず入れてください。歩道橋でも立体駐車場のスロープでもかまいません。

期間と回数の目安
「何回やればいいですか」という質問がいちばん多い気がします。目安を書きますね。
| 段階 | やること | 見るところ |
|---|---|---|
| 1回目 | 家の中で30分〜1時間 | 指が当たる/甲がきつい |
| 2〜3回目 | 外を1時間、坂と階段を入れて | かかとの浮き/下りのつま先 |
| 4回目 | 2〜3時間の低山ハイク | 後半に出てくる当たり |
| そのあと | 本番へ | — |
合計で3〜4回、時間にして5〜6時間くらい。期間としては2週間から1ヶ月みておくと余裕があります。
あとは回数より、1回ごとに脱いで足を見ることのほうが大事かなと思います。赤くなっている場所があれば、それが山でマメになる場所ですね。次からそこにテーピングを貼っておくと、だいぶ違います。
間に合わないときの順番
山行が来週に迫っている、という場合もあると思います。優先順位はこうです。
まず家の中で1時間。これは今日できます。次に階段の上り下りを30分。この2つだけでも、当たる場所はかなり見つかります。
逆にまったく履かずに本番へだけは避けてください。テーピングと絆創膏を多めに持って、痛くなったらすぐ止まる。そういう覚悟で行くことになります。

痛くなる場所ごとの対処
慣らしをすると、たいていどこかが痛くなります。場所によって原因が違うので、分けて書きますね。
足の甲が痛い
これはとても多いのですが、靴ひもの締めすぎであることがほとんどです。靴が合っていないわけではないんですよね。
登山靴のひもは上下で締め分けられます。足首側をしっかり締めて、甲のところは緩める。フックの手前で一度ひもを交差させて止めると、上下の力が分かれます。
それでも当たるなら、甲の上に来ているひもの位置を1段ずらしてみてください。骨の出っ張りを避けるだけで消えることがあります。
下りでつま先が当たる
これはかかとが浮いて、足が前に滑っている状態です。原因は靴ひもか、サイズが大きいかのどちらかですね。
まず足首側をしっかり締め直してみてください。それで止まるならひもの問題です。締めても滑るなら、インソールを1枚入れて容積を減らすほうが確実かなと。厚い靴下で埋めるのは、下りでつぶれるのでうまくいきません。
かかとが擦れる
かかとの上のほうが赤くなるのは、歩くたびにかかとが上下しているということです。
ここも足首側の締め方で変わることが多いです。締め直してもダメなら、かかとの形が合っていない可能性があります。慣らしの段階で分かってよかった、と考えて、買った店に相談してください。
小指の付け根が痛い
これは横幅の問題ですね。ただ、日本人は幅の広い足の方が多いので、幅の広いモデル(3Eなど)が用意されているブランドを選ぶと解決することがあります。
いま履いている靴でどうにかするなら、その部分だけ靴の中から押し広げてもらう(ストレッチ)という手があります。登山用品店でやってくれるところが多いです。
慣らす前に、見ておくところ
最後に、これは安全に関わるので独立して書きます。
しばらく履いていない靴は、まずソールを見る
登山靴の底にはポリウレタンという素材が使われていることが多く、これは履いていなくても年月で分解します。いわゆる加水分解ですね。
前触れがなく、歩いている途中でソールがべろりと剥がれます。山の中でこれをやると、下りられなくなるんですよね。
数年ぶりに出してきた靴は、履く前にソールの側面を指でぐっと押して、ひび割れや、境目の浮きがないかを見てください。少しでも怪しければ、山では履かないでください。
保管の仕方で、寿命が変わる
モンベルは保管について「風通しが良く、湿度が高くならない場所で、直射日光を避けて保管してください」と案内しています。避けたいのは購入時の靴箱や収納袋など風通しの悪い入れ物と、車の中や野外の物置など高温になる場所です。
乾燥剤の入った袋に入れておくと「加水分解などの劣化を和らげることができる」ともあります。ただし完全に乾かしてからしまうことが前提です。
買ったときの箱に入れて押し入れ、というのがいちばんやりがちで、いちばん良くないんですよね。私も昔これをやって、1足だめにしました。
よくある質問
登山靴の慣らしは何回くらい必要ですか?
3〜4回、合計5〜6時間が目安です。期間としては2週間から1ヶ月みておくと余裕があります。
ただし回数より大事なのは、1回ごとに脱いで足を見ることです。赤くなっている場所が、山でマメになる場所ですね。
アスファルトで慣らすとソールが削れませんか?
削れますが、慣らしの数時間なら問題になりません。登山靴のゴムは岩をつかむためにやわらかめなので、硬い路面では確かに減ります。
まずいのは山用の靴を通勤や普段履きにしてしまうほうです。気になるなら河川敷や公園の土の道でもまったく同じことができるので、そちらで大丈夫です。
慣らしはどこを歩けばいいですか?
坂と階段です。平らな道をまっすぐ歩いても当たりはあまり出ません。
登りでかかとが浮かないか、下りでつま先が当たらないか。この2つが山で痛くなる場所なので、歩道橋でも駐車場のスロープでもいいので必ず入れてください。
足の甲が痛いのですが、靴が合っていないのでしょうか?
たいていは靴ひもの締めすぎです。登山靴のひもは上下で締め分けられるので、足首側をしっかり、甲は緩めにしてみてください。フックの手前で一度交差させて止めると、力が分かれます。
それでも当たるなら、甲に来ているひもの位置を1段ずらすと消えることがあります。
慣らさずに山へ行ったらどうなりますか?
山で初めて痛みが出ます。そして山では引き返す以外の対処がありません。
どうしても時間がないなら、家の中で1時間と階段30分だけでもやってください。この2つで当たる場所はかなり見つかります。テーピングと絆創膏は多めに持っていってください。
何年も履いていない登山靴は、そのまま使えますか?
まずソールを確認してください。登山靴の底に使われるポリウレタンは、履いていなくても年月で分解します。前触れなく歩行中にソールが剥がれることがあります。
側面を指で押して、ひび割れや境目の浮きがないか見てください。怪しければ山では履かないでください。
新品の登山靴は、どう保管すればいいですか?
モンベルの案内では「風通しが良く、湿度が高くならない場所で、直射日光を避けて」とされています。
やりがちなのが買ったときの箱に入れて押し入れで、これがいちばん良くありません。車の中や野外の物置も高温になるので避けてください。
まとめ
- 慣らしの目的は柔らかくすることではなく、当たる場所を先に見つけることです
- 目安は3〜4回・合計5〜6時間・期間は2週間から1ヶ月
- 歩くのは平地より坂と階段。登りのかかと、下りのつま先を見ます
- アスファルトでソールは削れますが、慣らしの数時間なら問題になりません
- 気になるなら河川敷や公園の土の道でまったく同じことができます
- 足の甲の痛みは、たいてい靴ひも。足首側をしっかり、甲は緩めに
- 下りでつま先が当たるならインソールで容積を減らす。厚い靴下では解決しません
- 何年も履いていない靴はソールの加水分解を先に確認してください






私が最初に買った登山靴は、近所を1時間まっすぐ歩いて「もう大丈夫だな」と思って本番に持っていきました。
登りは平気でした。問題は下りで、1時間くらいで両方の親指が痛くなって、そこから2時間、かばいながら降りることになりました。
あとから分かったのは、平らな道しか歩いていなかったことです。下りは、下ってみないと分かりません。歩道橋でもいいので、階段を上り下りしておけばよかったなと思います。